【8月17日 東方新報】中国で7月26日に公開が始まった、主人公ナーザの物語を描いた国産アニメ映画『哪吒之魔童降世(英題:Ne Zha)』が空前の大ヒットとなっている。興行収入は早くも約38億元(約574億円)となり、中国のアニメ映画市場で新記録を樹立。米国と日本のアニメ作品が主流だった中国で、「国産アニメの時代が到来した」と注目されている。

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 中国でこれまで最高の興行収入だったアニメ映画は、ディズニー(Disney)映画『ズートピア(Zootopia)』の15億2700万元(約230億円)。2位の『リメンバー・ミー(Coco)』は12億1200万元(約183億円)、3位は『怪盗グルーのミニオン大脱走(Despicable Me 3)』の10億3700万元(約157億円)と上位は米国作品が占めていた。中国作品のトップは2015年の『西遊記之大聖帰来(邦題:西遊記 ヒーロー・イズ・バック、<MONKEY KING: HERO IS BACK>)』の9億5600万元(約144億円)で、『哪吒之魔童降世』の収入は既に倍以上となった。ちなみに日本作品では『君の名は。(Your Name.)』が5億7500万元(約87億円)、『STAND BY ME ドラえもん(Stand by Me Doraemon)』が5億3000万元(約80億円)とヒットしている。

 ナーザは道教などに由来する少年神で、「西遊記」や「封神演義」などの古典文学にも登場している。日本では、「週刊少年ジャンプ」でヒットした漫画「封神演義」に登場する戦闘マシーンのキャラクター「哪吒(なたく)」のモデルと言えば、思い浮かぶ人も多いだろう。

 1979年の中国初の大型カラー長編アニメ『哪吒鬧海(邦題:ナーザの大暴れ)』でもナーザは主人公だったが、今回の作品は「ナーザのイメージが全然違う」と良い意味で評判となっている。生まれた時からとんでもない悪ガキで、「世界に災難をもたらす」運命を背負っていたナーザが、人々のために命をささげるスーパーヒーローに変身していくストーリー。餃子(Jiao Zi)監督は「これまでのナーザのイメージと違い、運命に甘んじず、先入観を打ち破る信念を描いた」と説明する。大胆なストーリー展開と最先端のアニメ技術をふんだんに取り入れ、爆発的人気をもたらした。

 中国では1978年に改革開放が始まり、80年から手塚治虫(Osamu Tezuka)原作の『鉄腕アトム(Astro Boy)」』が海外アニメ第1号として中国で放送されると、日本や欧米から大量のアニメが流入した。『一休さん』のオープニングソングを耳で覚え、日本語が分からずとも、今でも「スキ」と繰り返される出だしを歌える中国人もいる。90年代からは日本アニメがテレビで特に多く放映され、『SLAM DUNK(スラムダンク)』や『聖闘士星矢(Saint Seiya)』は当時の少年・少女にとって特別な作品として印象に残っている。一方で、それと並行してアニメ制作の国際分業化が進み、日本や欧米のアニメ制作の下請けで多くの制作会社が中国で誕生し、地力をつけ始めていた。

 中国政府は、国産アニメ産業を振興しようと、2006年に海外アニメの輸入・放送を制限。ゴールデンタイムに海外アニメを放映しないよう規定を定めた。そして、かわいいヒツジたちが主人公のテレビアニメ『喜羊羊与灰太狼(邦題:シーヤンヤンとホイタイラン)』が2005年からスタートし、徐々に人気が広まっていくと、日本や米国アニメの模倣色が強かった中国アニメの「自立」が始まる。

 中国経済が急速に発展し、映画産業が盛んになると、国産アニメ映画も増えていった。先に挙げた孫悟空が主人公の2015年の映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は国内で多くの反響を呼んだ。「国産アニメはストーリーが弱い」「外国アニメの模倣で、技術も質も劣る」と言われ続けた「壁」を破るきっかけの作品となり、その後もヒット作が続き、ついに今回の『哪吒之魔童降世』にたどり着いた。

 中国は現在、世界最大のアニメ市場国となり、最大のアニメ生産国となった。今後は海外に進出し、「メード・イン・チャイナ」のアニメが受け入れられるかが鍵となる。(c)東方新報/AFPBB News