■出来事の重要性に比例する陰謀論

 フランスの研究者で、陰謀論に関する広範な著作のあるディディエ・ドゥソルモー(Didier Desormeaux)氏は、出来事の重要性が増せば増すほど、とんでもない陰謀論を引き付ける傾向があると指摘する。

 ドゥソルモー氏はAFPの取材に対し、「宇宙で主導権を握ることは人類にとって重大な出来事だった。それを攻撃することで、科学の根源と人類による自然支配という概念を揺さぶることができる」と述べ、そのような理由からアポロ11号の月面着陸が陰謀論者たちのターゲットになっていると説明した。

 アポロ以前の陰謀論──1963年のジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)大統領暗殺やUFOが墜落したとされる「ロズウェル事件(Rosewell Incident)」──でも画像は検証された。だがアポロでは、NASAが公開した画像の詳細な分析が陰謀説の基となった点がそれまでのケースとは違うとドゥソルモー氏は言う。

■「画像は思考をまひさせる」

 ドゥソルモー氏によると「メディアイベントの視覚的解釈を中心に構築され、それがすべて仕組まれたものであると非難する陰謀論」は月面着陸が初めてだったという。

 また同じ論法が、米国で相次ぐ学校襲撃事件をうそだとする陰謀論でも繰り返し使われていることも指摘された。画像は、よりゆがんだ論理的飛躍とともに提示されると「私たちの思考能力をまひさせる」というのだ。

 NASAの史料編さん官だったロジャー・ラウニアス(Roger Launius)氏は、否定論者たちは他の人々が指針としている調査方法や知識を受け付けないと批判する。「彼らは政府に対する人々の不信感や、社会に対するポピュリスト的な批判、(科学的な考え方の)基本と知識の創出に対する疑問といったものにつけ入ってきた」

 またラウニアス氏は、そうした妄想にメディアが油を注いだと非難し、「月面着陸陰謀論は、この出来事をより新しく、異なる視点で伝えたいという(メディアの)競争によってあおられた」と指摘している。(c)AFP/Frédéric POUCHOT