【7月9日 AFP】気候変動と急速に進む熱帯雨林破壊の同時発生で、野生生物が涼しい環境に移動することができなくなり絶滅の危険性が高まっているとの研究論文が8日、発表された。

 英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジ(Nature Climate Change)に掲載された論文によると、中南米、アジア、アフリカの森林のうち、動植物が耐え難い気温上昇の影響から逃れて避難できる場所は全体の5分の2以下しかないという。

 論文の筆頭執筆者で、英シェフィールド大学(University of Sheffield)の研究員レベッカ・シニア(Rebecca Senior)氏はAFPの取材に「2000年~2012年に熱帯雨林が消失したことが原因で、インドの国土より広い範囲で、気候変動の影響から生物種を守る能力が失われた」と語る。「森林の消失は生息地を直接的に奪うだけでなく、生物種の移動も困難にする」

 より気温が低い生息環境へ逃げるルートがなくなるということは、気温上昇が「影響を受けやすい生物種の国中および世界中での絶滅につながる可能性がある」ことを意味するとシニア氏は続けた。

 気候変動が現在のペースで進行すると、現在、高温の影響が最も低い地域に移動している動植物は2070年までに、20世紀後半に比べ平均2.7度高い環境にさらされると考えられるという。

 人類が地球温暖化を2度未満に抑制するという最良のシナリオの下でも、熱帯地方の生物種は2070年までに気温0.8度上昇を経験する。ただ、最良のシナリオが実現する見込みは薄くなっている。

 動植物種は気候の変化に直面すると、山岳地帯を登ったり下ったり、水温の低い海域や高い海域に移動したりを常に繰り返してきた。

 だが、気候変動がこれほど急速に進んだことは過去にほとんど例がなく、それが生息環境の極度の分断と同時に発生したこともこれまでに一度もない。

「熱帯の生物種は気温の変化に特に敏感だ」と、シニア氏は説明する。「これらの種の大半は世界の他の地域にはみられず、地球の生物多様性の大部分を構成している」

 国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(Red List)には、干ばつや極度の気温差などの影響で絶滅の危険性が高い生物種として約550の熱帯種が記載されており、うち半数以上がすでに絶滅危惧種に指定されている。

 絶滅の危機にある熱帯種には、アカテホエザル、ジャガー、オオカワウソなどの哺乳類が含まれる。

 また、すでに世界各地で謎の病原菌に襲われている両生類は、絶滅の危険性が特に高くなっている。「両生類は特定の生息環境に高度に特化されており、あまり遠くへは移動できず、酷暑や乾燥に対して非常に敏感だ」と、シニア氏は指摘した。

 米メリーランド大学(University of Maryland)の研究施設グローバル・フォレスト・ウオッチ(Global Forest Watch)によると、2014年以降に破壊された熱帯雨林の面積は、英イングランド地方の面積の5倍に相当している。

 熱帯の生息地消失と気候変動の相互作用を10年以上にわたり世界規模で調査したのは今回の最新研究が初めてとなる。(c)AFP/Marlowe HOOD