■「緊急性の高い」健康リスク

 今回のWHOのキャンペーンでは、欧州、北米、豪州において今後30年間で約240万人がスーパーバグへの感染で死亡することも考えられるとした経済協力開発機構(OECD)の推計値が提示された。

 また薬剤耐性に関する国際協働グループ「International Coordination Group on Antimicrobial Resistance」の最近の報告書によると、多くの国では、半数以上の抗生物質が不適切に使用されていることが判明しているという。この中には、細菌感染にのみ有効な抗生物質がウイルス感染を治療するために処方されるケースも含まれている。

 それに加えて、多くの低・中所得国では、有効で適切な抗生物質の入手機会に大きな格差も生じている。抗生物質を入手できていれば治療できる肺炎で、毎年100万人近くの子どもが命を落としているとWHOは説明した。

「AWaRe」と命名されたWHOの最新の分類体系では、抗生物質を「アクセス(Access)」、「ウォッチ(Watch)」、「リザーブ(Reserve)」の3つのカテゴリーに分けている。

 WHOのキャンペーンの狙いは、基本的なカテゴリーの「アクセス」に分類される薬剤が抗生物質の全消費量の少なくとも60%を占めるようにすると同時に、他の抗生物質が効かない症例のための治療手段として確保しておく残り2つのカテゴリーに属する薬剤の使用を減らすことだ。

「アクセス」群の抗生物質は複数ではなく特定の細菌だけを標的とする、作用範囲の狭い「狭域」の薬剤であるため、これらを使用することで耐性リスクが低減すると、WHOは説明している。また、アクセス群の抗生物質は他よりも安価だという。

 だが、自国内の抗生物質の使用に関するデータを収集している国は世界で65か国にとどまり、その大半は欧州にある。WHOによると、この中で「60%の目標」を達成している国は半分以下だという。

 18日の声明でWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長は、「抗微生物薬耐性は現代において最も緊急性の高い健康リスクの一つであり、100年分の医学の進歩を台無しにする恐れがある」と指摘しており、「すべての国は、最も治療が困難な感染症のために一部の抗生物質の使用量を確保しておくことで、命を救う抗生物質を確実に入手できるようにすることと、薬剤耐性の発現の抑制とをうまく両立させなければならない」と述べている。(c)AFP/Nina LARSON