【5月30日 AFP】バイクタクシー運転手のエリック・ウルタド(Erick Hurtado)さん(42)は8年前から、ベネズエラの首都カラカスにある放置された建物で暮らしている。そこから抜け出すことを望んではいるが、悪夢のような日常にもかかわらず、政府の住宅供給をそこで待ちたいと話す。

 この建物では約120人が暮らしているが、住宅供給は全員に共通する夢だ。カラカスで最も貧しい地区の一つ、ペタレ(Petare)にあるこの建物には当初、法務省が入る予定だったが、未完成のまま放置されている。そこに住み着いた人々からは、「エホバヒレ」と呼ばれている。

 住民の大半は、自然災害か同国の壊滅的な経済危機の犠牲者だ。

「ここで暮らすのはもう十分だ。もし他に行くところがあれば、この穴蔵を抜け出したい」。広大な貧困地区を見渡せるその建物で、ウルタドさんはAFPの取材にそう語った。

 この建物では4か月前から水が使えなくなった。

 住民らは、建物そばのアスファルトの道路に穴を掘って急ごしらえの風呂おけを作り、そこで入浴したり洗濯したりしている。トイレは、プラスチック製のバケツで代用。電気は1階でしか使用できず、病気もまん延している。

 エホバヒレでは約80人の子どもが暮らしているが、学校へ通っているのは50人ほど。通学している子どもでも、交通手段や食料の不足によって学校を欠席しがちだ。

 また多くの子どもたちは、慢性的な栄養不足が原因でおなかが膨れており、デング熱や疥癬(かいせん)、気管支炎にかかっている子どももめずらしくない。

 だが、そんな彼らにも希望はある。以前そこで暮らしていた住民の一部が、政府の住宅支援プログラムによって住居を手に入れたのだ。同国政府は、これまでに260万戸の住宅を提供したとしているが、野党側は数字が水増しされていると主張している。

 エホバヒレの住民たちは、建物を不法占拠していると思われたくないと話しており、被害者と認識してもらうため協同組合も結成している。彼らの願いは、一日も早くカラカス郊外の集合住宅に転居することなのだ。(c)AFP/Alexander MARTINEZ