【5月16日 AFP】初期人類ネアンデルタール(Neanderthal)人と現生人類が分岐したのは少なくとも80万年前で、現在考えられているよりもはるかに早かったとする最新の研究結果が発表された。研究では遺伝子技術を用いず、歯の化石の進化を分析した。

 今回新たに提示された分岐年代は、これまでの推定値よりも約30万年早い。人類学者の多くは現在、別の絶滅人類種ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)が、現生人類とその近縁種ネアンデルタール人との最後の共通祖先であると考えている。だが今回の結果は、その可能性が低いことを意味している。

 科学者らは近年、人類種の進化の謎の解明に、1世代当たりの遺伝子の変化は一定の速度で生じてきたと仮定し、分子的な違いを比較することで分岐年代を推定する「分子時計」を用いている。

 だが、英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)のアイーダ・ゴメスロブレス(Aida Gomez-Robles)氏が行った今回の研究ではDNA分析の代わりに、絶滅人類種の歯の進化速度を詳しく調べた。この結果、歯冠の大きさと形状が一定の速度で変化していることが分かった。

 研究では、スペインにある「シマ・デ・ロス・ウエソス(Sima de los Huesos)」遺跡から出土した人骨化石約30体の臼歯と小臼歯に着目した。先行研究の年代測定により、これらの化石の年代は43万年前という信頼性の高い結果が得られていた。これは、従来の仮説で現生人類とネアンデルタール人が分岐したとされる年代に近い。

 だが今回、シマ・デ・ロス・ウエソス遺跡のホミニン(ヒト族、類人猿を除く現生種と絶滅種の人類を表す用語)の歯とネアンデルタール人の歯との間に強い類似性があることが発見された。これは、現生人類とネアンデルタール人の分岐が、長年考えられていたよりも早い時期に起きた可能性があることを意味する。

 ゴメスロブレス氏は統計分析を用いて、分岐年代を80万年前と推定した。

「ネアンデルタール人と現生人類との分岐時期を80万年前より後の年代に設定すると、シマ・デ・ロス・ウエソスの初期ネアンデルタール人が予想外に急速に歯を進化させる必要がある」と、ゴメスロブレス氏は指摘する。

「最も重大な示唆は、ホモ・ハイデルベルゲンシスが現生人類とネアンデルタール人との間の最後の共通祖先ではあり得ないことだ」と、ゴメスロブレス氏はAFPの取材に語った。(c)AFP