【5月10日 AFP】南極大陸を調査している生物学者らは半世紀以上もの間、地球上で最も寒冷で極度の乾燥状態にある南極の環境への生物の対処について、その理解を深めようと研究の焦点を置いてきた。

 だが、これまで生物学者らが考慮に入れていなかったものが一つあった。それは、かわいいペンギンやアザラシのコロニー(営巣地)から生じる、窒素に富む「ふん」が演じる役割だ。

 9日の米科学誌カレント・バイオロジー(Current Biology)に掲載された最新論文では、大きな影響力を持つこのふんが、コロニーから1000メートル以上に及ぶ範囲のコケ類や地衣類の群落の繁栄を支えており、それによってトビムシやダニなどの莫大(ばくだい)な数の微小生物の生命が維持されていることが明らかになった。

 論文の共同執筆者で、オランダ・アムステルダム自由大学(VU)生態学部のステフ・ボクホルスト(Stef Bokhorst)氏は「ペンギンやアザラシが生成するふんがアンモニアとして部分的に蒸発することが確認されている」と説明する。

「このアンモニアが風に乗って内陸部まで移動すると、土壌に浸透して窒素を供給する。窒素は一次生産者の植物がこのような環境下で繁栄するためには必須のものだ」

 土壌と植物の呼吸量を測定する赤外線ガス分析計を用いてコロニーの周囲を調査するために、研究チームは現地の厳しい低気温を物ともせず、ゾウアザラシやジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギンなどの騒々しい群れをかき分け、動物の排せつ物に覆われたエリアに足を踏み入れた。

 持ち帰ったサンプルを研究室で調べた結果、1平方メートル当たり数百万匹に上る微小な無脊椎動物が存在することが判明した。これは生息環境内に捕食動物がいないためで、個体密度が通常5万~10万匹とされる欧州や米国の草原とは状況が異なる。

 ボクホルスト氏は、AFPの取材に「採取される動物が多いほど、存在する窒素フットプリント(環境中に放出される反応性窒素の総量)が大きく、その場所で確認される多様性が高くなる」と述べ、その地域の寒冷性や乾燥性よりも、排せつ物によって付加される栄養量の方が、種の豊富さとの関連性は高いと強調した。