■「なぜあの男は命を落としたのか?」

 この事故を受けて、ミハエル・シューマッハ(Michael Schumacher)氏や、ニキ・ラウダ(Niki Lauda)氏、ベルガー氏らはグランプリ・ドライバーズ・アソシエーション(GPDA)を再編してスピードを抑える措置を講じるよう訴え、月末のスペインGP(Spanish Grand Prix)からレギュレーションが導入された。6月中旬のカナダGP(Canadian Grand Prix)では、コックピットの改善とサスペンションの強化が図られた。

 翌1995年シーズンには衝突テストの基準が引き上げられ、1996年には選手の頭部周辺を保護するプロテクターが取り付けられた。1998年にはホイールが外れるのを防ぐテザーを追加。2003年にはヘルメットを固定して頸椎(けいつい)を保護する装置「頭部・頸部(けいぶ)支持システム(HANS)」が導入された。

 そして2018年シーズンからは、頭部保護システム「Halo」が使われている。

 セナ氏の事故はコースレイアウトの見直しにもつながった。サンマリノGPは1995年から2006年で廃止になるまで、事故が起こった「タンブレロ(Tamburello)」のコーナーがシケインに変更された。そして現在GPが開催されているコースの3分の1以上は「ティルケドローム」、つまりドイツ人技師のヘルマン・ティルケ(Hermann Tilke)氏が事故後に設計、または改修したコースとなっている。

 ティルケ氏が設計、改修したコースは全体的に幅が広く、コーナーのランオフエリアが大きいといった特徴がある。

 セナ氏の死は、世間の姿勢をも変えた。

 英紙オブザーバー(Observer)で長年モータースポーツを担当したモーリス・ハミルトン(Maurice Hamilton)氏は、F1の安全史を扱った2013年公開のドキュメンタリー映画『伝説のレーサーたち 命をかけた戦い(1: Life on the Limit)』の中でこう語っている。

「1968年4月7日のジム・クラーク(Jim Clark)の死と、アイルトン・セナの死との最大の違いは、世界が答えを知る必要があったことだ。なぜあんなことが起こったのか? なぜあの男は命を落としたのか? なぜモーターレースはこれほど危険なのか?」「世界中の多くの人が、自宅のテレビでセナの死を目の当たりにした。モーターレースのことはよく知らないが、セナはよく知っているという人たちがね。だから犯人が必要だったんだ」 (c)AFP