■シンガポールの二の舞いを懸念

 中国政府は香港の芸術文化関連に多額の投資を行っており、香港の表現の自由はかつてないほどの脅威に直面している。

 中国政府は香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club)と共同で、植民地時代に刑務所と警察署として使われていた建物を改装し、大館としてオープンしたが、その総工費は4億8400万ドル(約538億円)に上っている。また、2020年には、港に面した場所に、総面積6万平方メートルの美術館「M+」がオープンする予定だ。

 さらに中国政府は、28億ドル(約3110億円)以上を投じ文化芸術地区「西九文化区(West Kowloon Cultural District)」の開発を行っており、M+と最近オープンした中国歌劇施設「戯曲中心(Xiqu Centre)」はその一部に含まれている。

 香港行政トップの林鄭月娥(キャリー・ラム、Carrie Lam)長官は、西九文化区の成功が「香港を世界屈指の大都市の一つに押し上げる」と期待を示している。

 一方、香港がシンガポールの二の舞いになるのではないかとの懸念の声も上がっている。シンガポールのアートシーンは政府の支援により盛り上がりを見せているが、作品が政府の指針に違反していると判断されれば、当局の意向によって支援が保留されたり打ち切られたりすることもある。

 これについて批評家からは、地元の芸術家が自己検閲を行い、敏感な問題については主題を深く掘り下げることを避ける可能性もあるとの批判が出ている。

 古くからある香港の現代美術施設の一つ「パラサイト(Para Site)」のコスミン・コスティナス(Cosmin Costinas)氏は、香港のアーティストたちは今のところ自己検閲を行っていないと話すが、検閲が問題となっていることは認めている。ただ、このような検閲は、主に第三者によるものだという。

 これは、AFPの経験とも重なる。

 西九文化区の広報は、AFPがこの問題についてM+と戯曲中心のディレクターにインタビューすることを認めなかった。また、大館の広報担当者も、アート部門責任者トビアス・バーガー(Tobias Berger)氏の代理としてインタビューに応じることを拒否した。

 唯一の例外は、年内に改修工事を終え再開予定の「香港ミュージアム・オブ・アート(Hong Kong Museum of Art)」の館長イブ・タム(Eve Tam)氏だった。タム氏は、敏感な問題について「どのような立場をとるかはアーティストたちの自由な選択」に任されていると指摘した。