■米企業が取引停止

 アウエルハンさんは、「毎日、寮から3キロ離れた工場まで連れていかれた」と、2年近く会えなかった5歳の娘を抱きながら語った。「収容所で教育を受けていた時、貿易について学んだ後、3か月間働くことになると言われた」

 工場での仕事は期間が短縮され昨年12月に終わり、アウエルハンさんはカザフスタンの家族の元に帰るのを許された。2か月近い労働の対価として支払われたのはわずか320元(約5300円)だった。政府の統計によると、新疆の最低賃金は月額平均820~1460元(約1万3500~2万4000円)に上っている。

 中国政府と新疆当局は、収容施設と最低賃金以下での労働との関係を強く否定している。新疆自治区の広報はAFPの問い合わせに対し、「教育訓練センターと企業の間には労働契約は存在しない」とし、「訓練センターから労働力を確保している企業はない」とEメールで回答した。

 だが、人権擁護団体は両者の間に結びつきがあることを主張しており、一部企業もそのことに気付き始めている。

 米ノースカロライナ州を拠点にするバジャースポーツウエア(Badger Sportswear)は1月、新疆のサプライヤーである和田泰達(Hetian Taida)が「再教育」と関係がある強制労働により製造を行っている疑いがあるとし、取引を中止すると発表した。

■再教育施設から工場へ

 アウエルハンさんら被収容者は再教育担当者に、少なくとも6か月間は「(担当者たちの)意のままになる」と言われたという。

 石油が豊富なカザフスタンは中国と良好な関係を保っており、カザフスタン政府は、中国政府が掲げる数兆ドル規模の貿易・インフラ開発構想「一帯一路(Belt and Road)」の「留め金」のような立場にあると自負している。

 カザフスタン政府は中国政府と新疆について対話を始めているが、再教育センターについて公に言及したり、中国政府を批判したりすることはない。カザフスタン外務省の代表は昨年12月の記者会見で、中国が「思いやりのしるし」として、カザフ人2000人以上に対してカザフスタンへの渡航を許可したと発表した。AFPはこの発言について外務省に何度か説明を求めたが、回答は得られなかった。

 新疆の行方不明者の親族を支援する人権団体アタジュルト(Ata Jurt)でAFPの取材に応じたカザフ人たちは、行方不明になっている家族の「再教育」が、別の形の拘束に変わっただけだと指摘する。

 そのうちの一人、アイボタ・ジャニベク(Aibota Janibek)さん(34)は1月、数か月間連絡が途絶えていた姉妹クニケイさんから連絡を受けた。クニケイさんは新疆から電話をかけてきて、沙湾(Shawan)県のじゅうたん工場での「仕事をあてがわれた」と話した。

 その後、クニケイさんからの連絡はないが、他の親族の話では、じゅうたん工場から別の場所に移動させられたという。「親戚は、(クニケイさんが)今は航空会社向けのペーパータオルを製造する工場にいると話していた」 (c)AFP/Christopher RICKLETON