親のいない子ゾウたちを再び元気に、ケニア国立公園の飼育センター
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(※この記事は、2019年3月28日に配信されました)
【3月28日 AFP】育ち盛りの3歳のゾウの子ども、ルガード(Luggard)は自分と同じく親のいない他の子ゾウの群れに遅れをとりつつ、立ち止まって草をはんだり、木の幹に体をこすりつけたしている。
ルガードは生後わずか5か月のとき、ケニアのツァボイースト国立公園(Tsavo East National Park)で群れからはぐれかけているところを発見された。そのときまでに、ルガードはすでに2回、撃たれていた。
一つの銃弾はルガードの左前足を貫通し、もう一つの銃弾は右後ろ脚の大腿(だいたい)骨の、膝関節のすぐ上の部分をうち砕いていた。
ナイロビ国立公園(Nairobi National Park)で親がいないゾウの子どもの飼育を行っている「デービッド・シェルドリック野生動物基金(SWT)」の飼育主任、エドウィン・ルシチ(Edwin Lusichi)氏(42)によると、発見されたとき、ルガードはすでに「手術を成功させるには手遅れ」の状態だった。
今、ルガードはここを新しいすみかとし、他の約20頭のゾウの子どもたちと一緒に生き生きと暮らしている。変形した脚を大きく引きずってはいるが、朝9時の餌の時間には茂みから出てくる。
子ゾウたちは人の子ども用の粉ミルクと水、ビタミン剤を混ぜた特別な餌を、特大サイズの「哺乳瓶」からごくごくと飲み、興奮した様子で鳴き声を上げる。
この子ゾウ一頭一頭に、悲しい過去がある。親と離れ離れになってしまった理由は、密猟、干ばつ、残り少ない野生の地に侵入してくる人間たちとの対立などさまざまだ。センターで飼育されている子ゾウのうち、最も幼いラロ(Larro)は生後わずか10か月だ。通常、ゾウは母親がいないと死んでしまう。
■「飾り物」のために殺されるゾウたち
世界自然保護基金(WWF)によると、主に象牙が目当てで年間約2万頭、1日当たり55頭のアフリカゾウが殺されている。「象牙のためだけにゾウを殺している。ただの飾り物のために」と、ルシチ氏は声を荒らげる。
センターでは子ゾウが3歳になる頃までケアを続ける。それまでは24時間365日体制で世話をし、3時間ごとに餌をやる。夜は木造の個室でゾウを寝かせ、そのときも、ごく幼いゾウには1頭ずつ飼育員が付く。
数年間を過ごした子ゾウたちはやがて自力で暮らしていくことを学び、最終的にはすでにある群れに加わるか、自分の群れをつくって、広い公園内へと巣立っていく。
ルガードのように身体に障害のあるゾウのためには、SWTがキブウェジ(Kibwezi)の森林の中で安全な保護区を運営している。1年中、餌と水が用意されており、近くに人間の集落はない。
SWTは過去42年間に、親のいない子どものゾウ230頭以上のリハビリを行ってきた。うち120頭以上が野生へ戻り、次の世代の子どもは30頭の誕生が確認されている。
人間が貧困にさらされているこの地域では、ゾウの群れが人間の暮らしや土地に損害を与えているという理由で密猟が正当化されがちで、それを撲滅するのは難しいだろう。
そうした物の見方を変えるために、SWTでは子どもたちが野生と親しめる遠足を行ったり、組織の活動で集まった資金で学校に寄付を行ったりしている。また禁猟区の近隣住民のために、密猟以外の選択肢となる商機を提供することも広く呼び掛けている。そして何よりも最終製品の市場を止めること、つまり象牙を買わないよう人々に呼び掛けることが重要だと主張している。(c)AFP/Mariette Le Roux