■欧米のファシストとネオナチ思想がルーツ

 白人至上主義者のルーツは、数十年前に欧米のファシストとネオナチ(Neo-Nazi)が信奉していた思想にある。

 フランスの歴史家ニコラ・ルブール(Nicolas Lebourg)氏は、今回の事件の容疑者がマニフェストで、1930年代の英国人ファシスト、オズワルド・モズレー(Oswald Mosley)の言葉を引用していることに着目する。モズレーは、人種別に住み分けることを構想していた。

 モズレーは「欧州人」という言葉を白人にのみ使っていたが、その用法を1940年代後半に広め始めたのは、米国人のネオナチ、フランシス・パーカー・ヨッキー(Francis Parker Yockey)だった。

 白人ジェノサイドという概念は1972年ごろ米国に登場し、その後、フランス人作家ルノー・カミュ(Renaud Camus)氏によって欧州に広がった。

 今回の事件の容疑者は自身のマニフェストを「壮大な入れ替え」と題していたが、これはカミュ氏の2011年の著書から取ったとみられる。この書は、欧州で非白人移民が白人に取って代わろうとしているという説を唱える内容で、白人至上主義者の間で人気がある。

 だが、今日の白人至上主義者は一枚岩ではなく、反イスラム主義者、反ユダヤ主義者、資本主義者、社会主義者などさまざまだ。彼らを結び付けているのは、移民反対という原理だと、専門家は指摘する。

 米バンダービルト大学(Vanderbilt University)のソフィー・ビョークジェームズ(Sophie Bjork-James)教授は、白人至上主義者は、白人のキリスト教徒が何世紀も支配してきた社会で、自分たちがマイノリティーになるかもしれないという不安を共有していると話す。

 だが、伝統主義を重んじ、移民に強硬姿勢を取る政治家の存在が、最近になり白人至上主義者を勢いづかせている。米国では、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が大統領選で反移民政策を打ち出し、白人が圧倒的多数を占める層の支持を集めた。

 ビョークジェームズ氏は、白人至上主義者やネオナチ、極右にとって「トランプ氏は自分たちの影響力を拡大する絶好の機会を与えてくれる指導者として映っている」と指摘する。

 クライストチャーチの事件の容疑者も、トランプ氏は「白人のアイデンティティーの復活と、共通する目標の象徴」だと記していた。一方、トランプ氏は、今回の事件は、世界中で白人至上主義が広まっていることの表れだとは思わないと発言し、批判を集めている。