女性選手の男性ホルモン値制限は「非科学的」、専門家が見解
このニュースをシェア
【3月22日 AFP】陸上女子のキャスター・セメンヤ(Caster Semenya、南アフリカ)を生まれつきテストステロン値が高いことを理由に競技から除外するのは、背が高い選手をバスケットボールから追放するのと同じことだと、21日に専門家が声を上げた。一方でスポーツ仲裁裁判所(CAS)は同日、セメンヤが国際陸上競技連盟(IAAF)を提訴した裁定について、日程を後ろ倒しにしすると発表した。
カナダ保健研究機構(Canadian Institutes of Health Research)は、筋肉の強さや骨量を増すとされるテストステロン(testosterone)の値を上昇させるだけでは、陸上女子800メートルで二つの五輪金メダルを獲得しているセメンヤのようなワールドクラスのアスリートを作り上げることはできないとした。
ここ10年間セメンヤが牛耳っている女子800メートルの世界記録は、1983年にヤルミラ・クラトフビロバ(Jarmila Kratochvilova、チェコ)氏が樹立した1分53秒28となっているが、同氏にはドーピング疑惑がかけられている。
同機構のジェンダーと健康に関する研究部門でトップを務めるカーラ・タンネンバウム(Cara Tannenbaum)氏は、AFPに対し「偉大なアスリートになるためには、各種のトレーニング、コーチング、設備や戦略にかける時間が最低1万時間必要になります」と見解を述べた。
「テストステロン値が高い女子選手を陸上競技から除外するのであれば、次は異様に背の高い男子をバスケットボールから締め出すのですか?」「男性であれ女性であれ、一つの遺伝因子だけで競技から除外するのは非科学的です」
IAAFの規則は、いわゆる「高アンドロゲン」もしくは「体の性のさまざまな発達状態(性分化疾患、DSD)」のアスリートが女性として競技を続ける場合、テストステロンを基準値まで下げることを強要するものとなっている。
アスリート以外の場合、テストステロンの血中濃度は男子では1リットルあたり9~31ナノモル、女子では0.4~2ナノモルが標準だという。しかし少なくとも一つの研究結果では、トップレベルの陸上選手の競技後の同値において男女のギャップはとても小さく、場合によっては重なり合うケースもあったという。
この結果を含む様々な理由により、タンネンバウム氏は英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で、テストステロンの濃度を1リットルあたり5ナノモルに設定するのは「恣意(しい)的」であり「差別的」だとしている。
テストステロン値の血中濃度を1リットルあたり5ナノモルと定める規程について裁定を下す予定のCASだが、2月に行われた審理を受けてセメンヤ側とIAAF側が追加資料を提出したため、裁定を「4月下旬」まで後ろ倒しにするとした。CASはプレスリリースで、「正確な日程は定められていない」としている。(c)AFP/Marlowe HOOD