【2月27日 AFP】世界最大の動物シロナガスクジラは毎年春になると、冬の繁殖海域であるコスタリカ沖から米太平洋岸北西部(Pacific Northwest)まで、好物の小型甲殻類オキアミを求めて移動する。

 科学者は長年、体重が100トンを優に超える巨大なシロナガスクジラの移動を追跡調査してきた。だが、シロナガスクジラが毎年どのように移動の行程を決めているのか――海流の状態に基づくのか、それとも、毎年同じ日に同じルートをたどっているのか――分かっていない。

 米政府機関と大学の科学者チームは今回の研究で、その答えにたどり着いたと考えている。

 研究チームは、タグを付けたシロナガスクジラ60頭の10年分の移動データを分析し、それをオキアミが餌とする植物プランクトンの毎年の春の大増殖期と照合した。

 研究チームは、米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した論文の中で、大半の移動性の陸生動物は資源の移り変わりに従って移動ルートを変えるが、シロナガスクジラは移動の決定を記憶に大きく依存しているとみられると説明している。

 米海洋大気局(NOAA)の生態学研究者ブリアナ・エイブラムス(Briana Abrahms)氏は、シロナガスクジラは「記憶を利用している」と指摘した。

「ある特定の年に起きていることに基づくのではなく、基本的に長い時間の経験を通じて発達させた予想能力を使って、(オキアミが増殖する)平均的な時期を選んでいる」と、エイブラムス氏は述べる。

「シロナガスクジラは、いわば失敗の危険を減らすために、自身の記憶すなわち過去から得た独自の経験を利用しているに違いないと考えられる」と、エイブラムス氏は述べた。さらに、「海洋の変化には非常に大きなばらつきがあり、何かが起こる時期を正確に予測するのは実に難しいこと」が、記憶に頼る理由の一つに挙げられると続けた。

「海は非常に活動的で、生息環境は刻々と変化している」「年によっても大きなばらつきがある」「平均を選び失敗の危険を分散化させている」

 だが、絶滅危惧種に指定されているシロナガスクジラに対して、気候変動が難題を突き付けている、とエイブラムス氏は指摘する。

「気候変動が原因で、平均からのずれが見られるようになっている。ずれは、正常なばらつきの範囲を大きく外れている」とエイブラムス氏。「このような大きな変化が、クジラなどの動物がこれまでに適応してきたよりもはるかに速いペースで起こっていることが、懸念をもたらしている」 (c)AFP