【10月25日 AFP】ザトウクジラは海中で不思議な鳴き声を発することで知られているが、船が近くを通る間は、少なくとも一時的に鳴くのをやめるとの研究結果を、日本のチームが24日に発表した。

 研究チームは、東京都心から南に約1000キロ離れた小笠原(Ogasawara)諸島に着目した。この海域では1隻の貨客船が1日に1回通過する。

 雄のザトウクジラはコミュニケーションや求愛の手段として鳴き声(鳴音)を発する。

 だが、クジラの反応を聞き取るための水中聴音器1組を海中に沈めた今回の研究では、調査海域で検出された雄のザトウクジラ約26頭が、貨客船が近づくと沈黙することが明らかになった。

 小笠原ホエールウォッチング協会(Ogasawara Whale Watching Association)と北海道大学(Hokkaido University)の辻井浩希(Koki Tsujii)氏が主導し、米科学誌「プロスワン(PLOS ONE)」に掲載された論文によると、研究ではザトウクジラの主な反応として「船の接近中または通過後に鳴くのをやめた」ことが記録されたという。また、貨客船の航路から500メートル以内の海域では、歌う雄ザトウクジラの数が他の場所に比べて少なかったことも分かった。

 論文によると「船が通過すると、約1200メートル以内にいるクジラたちは一時的に鳴音を低減、または完全に鳴くのをやめた」とされ、多くのクジラは、船が海域を離れてから30分ほど、鳴くことを再開しなかった。

 海中の騒音は、ここ数十年間で増加傾向にある。そのため、今回の研究は、外洋での人的活動の増大が、他のクジラの行動にも何かしらの変化をもたらしている可能性があることを提起するものだと、一部の専門家らは指摘している。

 鳴音を発するのは雄のザトウクジラに限られているため、雌と子のクジラに対する船舶騒音の影響については今回の研究の対象外となっている。

 船舶騒音の影響について、スイスを拠点とする野生生物保護団体オーシャンケア(OceanCare)の政策専門家ニコラス・エントループ(Nicolas Entrup)氏は、「今回の研究では、1隻の船が1日に1回だけ重要なクジラの生息環境を通過するケースを調査の対象としている。その事実を踏まえると、影響は極めて大きいと考えられる」と指摘している。

「一部海域では、多数のコンテナ船が通過する大洋航路がこうしたクジラの生息環境を横断しており、それが与える影響の大きさは、発声行動の変化をはるかに上回ることも考えられる。そのため今回の研究は、クジラにとってあまりにも騒々し過ぎる環境と化した地球というパズルに新たなピースを加えるものだ」 (c)AFP/Kerry SHERIDAN