■大使館再開などで布石

 第1の方策は、トランプ大統領が取り組んでいるアフガニスタンからの米軍撤収を後押しすることだ。アフガニスタンには今も、旧支配勢力タリバン(Taliban)や他の武装組織との戦いで政府の治安部隊を支援するため、1万4000人規模の米軍が駐留している。

 実際、秘密会合の翌週には、UAEのアブダビで米当局とタリバン代表団の和平協議が行われている。両者の協議にはサウジアラビアやUAE、パキスタンの当局者も関わっている。

 第2の方策は、イラクで「スンニ派(Sunni)カード」を掌握することだ。これは、イラク連邦議会におけるイスラム教スンニ派の最大会派に対するトルコの影響力を最小限に抑え込むことを意味する。

 モハメド・ハルブシ(Mohammed al-Halbousi)議長に対しては、昨年12月17日、サウジアラビアの首都リヤドを初めて公式訪問した際に圧力が掛けられた。サウジアラビアの元駐イラク大使が、スンニ派最大会派に対するトルコの影響力を減らすか、一掃するかの二者択一を議長に迫ったのだ。ハルブシ議長はその後、教育相候補の指名を妨害し、会派内に動揺が広がった。

 第3の方策は、サウジアラビア、UAE、エジプトの3か国とシリアのアサド大統領との完全な外交関係を復活させるための外交努力だ。アサド大統領は8年近くに及ぶ内戦で、イランの軍事支援と、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派(Shiite)原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)の戦闘員に大きく頼っている。秘密会合では、アサド大統領に伝えたいメッセージについても話し合ったという。

 その内容について説明を受けたという湾岸某国の当局者はこう語る。「彼らもアサド氏がイランとの関係を断つことまでは期待していないが、アサド氏にはイランに利用されるのではなく、イランを利用してほしいと思っている」

 合意を裏づけるように、会合後、関係国の要人によるシリア訪問が相次いだ。昨年12月16日には、スーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル(Omar Hassan Ahmed al-Bashir)大統領が、シリア内戦が始まった2011年以降、アラブ系の国の首脳として初めてシリアを公式訪問した。シリア専門家のカマル・アラム(Kamal Alam)氏は、サウジアラビア政府の同意がなければあり得ない訪問だと指摘している。

 UAEからも、情報機関のアリ・シャムシ(Ali al-Shamsi)副長官が1週間の日程でダマスカスを訪問。UAEは同月27日、8年ぶりに在シリア大使館の再開を発表した。サウジアラビア、UAEと緊密に連携しているバーレーンも追随し、同日中にシリアとの外交関係を復活させている。

 一方、その3日前にはシリア側から、アサド大統領の安全保障担当特別顧問を務めるアリ・マムルーク(Ali Mamlouk)氏が、異例のカイロ訪問を行った。消息筋は、両国間の関係正常化が近く発表される見通しだと語った。

 消息筋によると、エジプトはシリア政府に対して、主要な敵はトルコ、そしてサウジアラビアやエジプトなどが断交しているカタール、さらにイスラム主義組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」であると宣言することを望んでいる。