■標高5010メートルでの排水路建設

 急速に拡大するイムジャの氷河湖は、周辺にある村の人々を恐怖に陥れたことがある。

 1980年代初め、標高5010メートルの場所にあるイムジャ氷河の湖は非常に小さかったが、2014年までにその大きさは3倍以上に拡大した。湖は氷河が運搬して堆積した岩の塊や土砂からなる氷堆石でせき止められている状態で、専門家らは将来的に湖が決壊する恐れがあると警告していた。

 そして、2015年に大地震が発生した。人々はイムジャ湖が決壊し、村々を飲み込んでしまうのではないかと考え、恐怖に震えたという。この地域にあるスルキャ(Surke)村の住民はAFPの取材に、「地震によって湖が決壊し洪水を引き起こすと思った。走って逃げた」と語った。

 結果的に氷河湖の決壊は起きず、1万2000人の命は守られた。だが、大地震は政治家たちへの警鐘となった。さらに専門家は政府に対し、巨大な氷河湖は時限爆弾のようなものだと警告した。

 地震によって何千人もの命が危機にひんしたことを受け、2016年末に排水路の建設事業が始まった。当時のイムジャ湖の大きさは水深150メートル、直径2キロだった。

 同様の事業としてはまだ国内2例目で、その標高と厳しいアクセス状況から事業は困難を極めると考えられた。しかしそれは同時に、氷河湖の脅威が差し迫っていることの証しでもあった。ヤクやヘリコプターを使って資材や労働者を運び、薄い空気の中、6か月をかけて排水路と早期警報システムを設置した。水深は3.5メートル浅くなり、500万立方メートル以上の水が排出された。

 国連開発計画(UNDP)の気候変動専門家ディーパック・KC(Deepak KC)氏は、「水路ができたため、たまった水は流れ出ていくようになった。これによりリスクは軽減された」と説明した。