■実験する権利

 しかし、トランスヒューマニズムの倫理的影響について研究する、英サセックス大学(University of Sussex)のブレイ・ホイットビー(Blay Whitby)氏は懐疑的だ。

「トランスヒューマニズム支持者から送られてくるメールの中には、署名に『死は今や自由に選択できる』や『500歳まで生きる初の人間がすでに生まれている』などのスローガンが添えられていることがある」と、ホイットビー氏は述べる。「彼らは明らかに私よりも楽観的だ」

 AFTのルー会長も技術の進歩によって倫理的問題がもたらされていることは認めている。だが、未来の世代に深い影響を与えることを目的に変更を加える行為そのものを嫌悪すべきではないというのが、トランスヒューマニズム支持者らの見解となっている。

「どうしてこれが必然的に悪いことになるのだろうか」と、ルー会長は問いかける。「この問題に関しては、もはや議論の余地はない。トランスヒューマニストは道徳的見地から非難されるが、人々はその理由を忘れてしまっている」

 トランスヒューマニストらは、赤外線スペクトルで見ることを可能にする網膜移植や、超音波を聞き取ることを可能にする蝸牛(かぎゅう)移植といった、すでに技術的に可能な実験を行えない理由はどこにもないと考えているのだ。

■超人化の代価

 他方で、仏インテリジェントシステム・ロボティクス協会(ISIR)のナサナエル・ジャラス(Nathanael Jarrasse)氏は、別の問題を提起している。

 それは、「人類を救うであろう技術」の重要性を説いている人々と、その技術を販売している人々が、時に同一である点だ。彼らにとって人体は、新たな市場なのだ。

 これについてジャラス氏は、「政治的、戦略的、経済的な決定が、SFのような未来を約束している企業や信じ難い製品を広めている新興企業などの経済的利益に基づいて下されることがあってはならない」と指摘する。また、こうした理由によって、研究が本当に必要とされているところから遠ざけられてしまう可能性があることにも注意を呼び掛けた。