■伝統の「キムジャン」は南北変わらず

 そうした違いが鮮明になる中でも、毎年肌寒い季節になると行われるキムチの付け込み行事「キムジャン」は各家庭の伝統としてどちらの国にも残っている。

 北朝鮮の一般家庭で行われている「キムジャン」を見てみたいとリクエストしたところ、平壌にあるソンさんのマンションで漬け込みの作業を見せてもらえることになった。ソンさん宅には、いとこのユ・ヤンフイさんが来ていた。プロの料理人であるユさんは、薄切りにした大根やニンニク、細かくしたタラ、赤トウガラシのペーストを混ぜ合わせ、それらを24時間、塩水に漬けて柔らかくした白菜の葉の間に手際よく広げていった。この白菜をプラスチック製のバケツに詰め、ベランダに置いて発酵させると1週間後にはキムチとなる。食べごろになるまでには1か月くらいかかるという。「コリアンはキムチだけあれば、ご飯が食べられる」とユさんは説明した。

 故金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)国家主席と故金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の巨大な像を見渡せるマンションに住むソンさん一家は、間違いなく北朝鮮のエリート家族だ。父親は後に国に譲渡することになったガラス工場の創業者だという。ソンさん宅にあるピアノは金正日総書記から贈られたものだ。またリビングルームに飾られていた集合写真には、現在の指導者、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とそのすぐ後ろに立つソンさんの姿を見ることができた。

 南北の意見を分かれさせている文化的要素はもちろんキムチだけではない。70年の分断を経て、日々使っている言語にも北朝鮮と韓国で違いが生じてきている。数年前にはビールの味の違いでちょっとした問題に発展したこともある。

 だがキムチに関しては、その味と質の議論が常にそれぞれの「記憶に残っている味」をめぐり行われているとWIKIMのパク氏は指摘する。「食べて育ったキムチ…母親が作ってくれたキムチに最も似た味のキムチを人はおいしいと感じる」と話し、その理由から「キムチにはすべてのコリアンを束ねる情緒的な共通要素がある」のだと説明した。(c)AFP/Hwang Sunghee in Seoul, Sebastien Berger in Pyongyang