■タトゥーをしない最近の若いメンバー

 同じソヤパンゴでも、8万人が住むラス・マルガリータス(Las Margaritas)などの別の地域は、ライバル組織のMS-13が仕切っている。

 学校の休みの日だというのに、ラス・マルガリータスのサッカー場には人けが全くなかった。窓のカーテンも閉まっている。ギャングのことを話す大人たちは声を潜め、組織の名前は口に出さず、隠語を使って表現する。

 補修が必要な道路や病院は放置されたままで、ごみも散らかっている。住民らは恐怖の中で日々の生活を送っているが、中でも最も大きな問題は、ライバルギャングが支配するエリアに行くことだ。

「地区と地区の間には見えない境界線がある」。人類学専攻の23歳の学生が、匿名を条件に話してくれた。

 また、学生の友人で無職だという男性は、「別の地区からやって来たというだけの理由で、無理やり勧誘されたり、侮辱されたりする。殴られたり、誘拐されたり…もっとひどい場合もある」と述べ、「死にたくなければ、このゲットーから永遠に離れなければだめだ」と続けた。

 ラス・マルガリータスの住民らは病院に行きたがらない。その距離は2キロもないが、病院があるのはバリオ18の支配地域だ。そのため、週に1度訪れる国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」が彼らにとって命綱なのだ。

 MSFは、タクシーが行きたがらない地域から病人や負傷者、妊婦らを搬送する救急車を持っている。ギャングの影響でうつ病を患う人も多いため、MSFの精神科医らは、住民のうつ病の治療にもあたる。

 武装するギャングたちは、恐喝によって毎年数百万ドルという大金を入手している。かつては目を引くタトゥーやその服装から、ギャングのメンバーを見分けることができた。しかし近年、その状況は変わりつつある。

 現地警察当局も「彼らは変化を遂げている」と述べる。それは、一般社会に「入り込むための戦略」であり、ダミー会社を通じて資金洗浄を行う方法の一環であることを指摘した。

 事実、ソヤパンゴの郊外に位置するイロパンゴ(Ilopango)の警察署に身柄を拘束されていたギャングメンバーのうち、所属するグループのタトゥーをしていたのは、ベテランのメンバーばかりだった。

 最近の警察統計によると、エルサルバドルでは毎日平均9.2人が殺害されているという。(c)AFP/Florence PANOUSSIAN