■民主主義に移行も多発する集団暴行…世界でもまれ

 インドネシア政府は集団暴行に関する統計を公表していないが、世界銀行(World Bank)のデータによれば、同国で2005~2014年に起きたこうした事件は、重傷や死亡を招いたケースを含め3万4000件近くに上るとされる。

 驚くべき数字だが、地元メディアの報道を基にしたこの統計では、一部地域が対象になっていないため、実際の数字はこれを上回るものとみられている。対象から外れた地域で暮らす人の数は、同国総人口の約半数に上るとされる。

 世界銀行の調査チームを率いた米シカゴ大学(University of Chicago)博士課程の研究員、サナ・ジャフリー(Sana Jaffrey)氏は、インドネシア社会のこうした傾向について、ある特徴を指摘する。同氏によると、集団暴行は通常、社会と政治の混乱に乗じて増加するが、この20年で安定した民主主義体制に移行してきたインドネシアは、そうした傾向に当てはまらないというのだ。「世界の大半の国では、制度の安定が増すことと、暴力(事件)が増えることは同時に起きない」

 インドネシアでリンチの犠牲になるのは、犯罪行為の疑いをかけられた人々だけではない。

 今年に入ってからは、婚前交渉を疑われた若いカップルが、数人の男らに暴力を振るわれる事件が起きている。このカップルは集団から殴打され、周辺を裸で引き回されてさらし者にされた。

 また、イスラム法が施行されているアチェ(Aceh)州では、市民団体、時には警察までもが公の場で辱めを与えて罰を下すことが一般化してきているとされる。(c)AFP/agus SARAGIH