■ノウハウは単純、でも得難い

 黄色の薄焼き卵、わずかに焦がした香り、豚骨で煮出したスープ。香りが辺りに漂う。スープを吸った厚めののりが一番上に。うっとりとさせる味だ!

 ワンタンをゆでる時間にはこだわりがある。ワンタンの具に火が通り、皮にまだコシが残っている状態で鍋からすくい出し、どんぶりの中へ。ワンタンの皮は熱さの残るスープの中で引き続き加熱され、客が口の中に入れる頃、ワンタンの食感が最適となる瞬間を迎える。

 手作りのワンタンは、皮の隙間から具の中身があふれ出ることがあるが、具がスープを吸って味がまた深くなる。スープの中にわずかに残るこしょうの香りがまた何とも言えず鼻をくすぐる。

■秘訣(ひけつ)は「新鮮」の2文字

 新鮮なものこそがおいしい。これが、蔡師匠のワンタンが毎日売り切れる理由だ。蔡師匠が作るワンタンの具は、誇りだ。肉汁の新鮮さを出すために、ネギや醤油、調理酒は一切入れない。

 他のワンタン店と異なるところは、蔡師匠のワンタンの皮は特別に作ったもので、材料の中に卵白を入れる。火の通ったワンタンは、黄色っぽく見える。ワンタンの皮が店に運び込まれると麺棒で伸ばす。これでワンタンの皮がさらに薄くなり、皮のコシが強くなり、食感が良くなる。

「最近のワンタン店は、ネットで評判の「網紅店」やら何やらたくさんあるが、生き残るためには工夫が必要。一杯一杯、心を込めてワンタンを作るだけさ」と蔡師匠。

 蔡師匠自身も想像もしなかったことだろうが、同店が「電子決済は受けない」のニュースが偶然に広がり、逆にこの小さな店を「網紅店」へと押し上げ、もともと待てば食べられたワンタンが、待っても食べられない(かもしれない)ワンタンになった。

 外界の状況は変わっても、蔡師匠の毎日は頑固一徹、何も変わらない。作る数には限りがあり、売り切れ御免で、支払いは現金だけだ。

■「現金が一番!」

 蔡師匠がモバイル決済を受けないことを「名をあげるための演技」だと言う人がいるが、遠路はるばる食べに来る人もいる。現金しか受け取らないとか、並ばねば食べられないということは、味が本当に良いからだろうと言う人もいる。

 これらの「議論」を耳にして、蔡師匠は屈託がない。「アリペイは絶対に使わない。死んでも使わない。あんなものは信じられない。ジャック・マー(Jack Ma)やら馬化騰(Pony Ma)やら、なんじゃい! 現金が一番だ」(c)CNS/JCM/AFPBB News