■予想以上だった「調光スイッチ」の影響

 精神医学専門誌「トランスレーショナル・サイキアトリー(Translational Psychiatry)」で論文を発表した研究チームは、メチル化が個人の長期的な健康にどのような影響を与えるかについてはまだ不明だとしている。

 統計的に見ると、女性は児童虐待の被害者となる確率が男性に比べてはるかに高いが、卵細胞の抽出が困難なため、今回の実験を女性で再現する予定はない。

 今回の研究結果によると、子どもの時に虐待を受けた男性のゲノム(全遺伝情報)の一部は、虐待を受けていない男性と比較して29%異なっていた。これについて研究チームは、DNA領域における「調光スイッチ」の影響は予想以上に高かったとコメントしている。

 なお、メチル化の度合いには経時変化がみられるため、被験者の男性の細胞を調べることにより、虐待が行われた大まかな時期について知ることができた。

 これについては、「医療従事者が活用したり、法廷で用いられる証拠として使用されたりする可能性のある検査方法を開発する助けになるかもしれない」と、グラディシュ氏は指摘している。

 論文の筆頭執筆者のアンドレア・ロバーツ(Andrea Roberts)氏は、精子細胞内に含まれる虐待の痕跡が、受精後も元の状態のままかどうかについてはまだほとんど明らかになっていないが、今回の研究により、トラウマが次の世代に伝えられるかどうかの解明に向けて「少なくとも一歩近づいている」と述べた。(c)AFP/Patrick GALEY