【10月3日 AFP】虐待を受けた子どもは、そのトラウマ(心の傷)を示す物質的特徴が細胞の中に刻み込まれている可能性があるとする研究論文が2日、発表された。研究は、過去の虐待歴を調査する犯罪捜査の助けとなる可能性を秘めている他、トラウマが世代間で受け継がれるのか否かをめぐる長年の疑問解明への一歩ともなり得る。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)などの研究チームは今回の研究で、児童虐待の被害者を含む成人男性34人の精子細胞を詳しく調べた。

 その結果、精神的、身体的、性的な虐待を受けたことのある男性のDNAの12の領域に、トラウマによる影響の痕跡がしっかりと残されていることが分かった。虐待のレベルについてはさまざまとされた。

 研究チームは、未来の児童虐待容疑の捜査において、「メチル化」として知られるこのDNAの改変を捜査当局は調べることになるだろうと予想する。

 ブリティッシュコロンビア大遺伝医学部の博士号取得候補者のニコル・グラディシュ(Nicole Gladish)氏は、AFPの取材に「遺伝子を電球とみなすと、DNAメチル化はそれぞれの光の強度を制御する調光スイッチのようなものだ。そしてこれは細胞がどのように機能するかに影響を及ぼす可能性がある」と語った。

「ここで得られる情報から、児童虐待が長期的な心身の健康にどのように影響するかをめぐる、さらなる情報が提供される可能性がある」

 発達のさまざまな段階で遺伝子を「オン・オフ」するものについて調べる「後成遺伝学(エピジェネティクス)」分野での研究が近年、進められているが、今回の実験もその範疇に入るだろう。

 遺伝子をめぐってはかつて、受精時において既にプログラムが完了しているものと考えられていたが、現在では、環境要因や個人の人生経験によって活性化・非活性化される遺伝子も一部に存在することが知られてる。