【8月16日 AFP】過去10年で最悪規模の赤潮が発生している米フロリダ州では、イルカ、ウミガメ、魚といった海洋生物が、どす黒く変色した海水の中で次々と死に追いやられている。この事態を受けて同州はこのほど、非常事態を宣言した。

 フロリダ南西海岸沿いにある観光エリアでは、今月だけで100トンを超える海洋生物の死骸が回収された。周囲には悪臭が漂い、近隣の浜辺には誰もいない。

 同州サラソタ(Sarasota)郡の海岸ではこの1週間だけで12頭のイルカの死骸が打ち上げられた。これは通常1年間に確認される死骸の数に相当する。

 サラソタにあるモート海洋研究所(Mote Marine Laboratory)のグレッチェン・ラブウェル(Gretchen Lovewell)氏は、「これは心身ともに疲弊する作業だ」と話し、同僚2人と共に「文字通り昼夜を問わず作業している」とその状況を説明した。ラブウェル氏はウミガメや海洋哺乳類の死骸や弱った個体を回収する基幹要員を務めている。

 ラブウェル氏は12日、米国内トップクラスのビーチの一つ、シエスタ・キー(Siesta Key)の砂浜の近くで、腐敗しているイルカの死骸を回収した。イルカの背びれには「252」という凍結烙印(らくいん)の番号がうっすらと確認できた。

 それは「スペック」と名付けられた12歳の雄イルカだった。サラソタ湾(Sarasota Bay)に生息する数世代のバンドウイルカを観察している研究者らはそれまでスペックを300回以上確認していた。

 シカゴ動物学協会 (Chicago Zoological Society)が1970年から継続して実施している野生イルカ個体群の世界規模の長期調査「サラソタ・イルカ研究プログラム(Sarasota Dolphin Research Program)」を統括するランドール・ウェルズ(Randall Wells)氏は「衝撃的な出来事だった」とスペックの死について話す。

 ウェルズ氏が広げた地図には、研究者らが長年の調査でスペックを確認してきた場所が示されていた。スペックは同氏自宅のすぐ近くの海域まで泳いでくることも多かった。

 16歳でイルカの研究を始めたというウェルズ氏は、「スペックは、生まれた時から知っている大切な個体だった」「その名前は私の父親にちなんで名付けられた」とAFPの取材に語った。