■EUでは院内感染で1日に100人死亡

 ゼンメルワイスの名誉が回復し始めたのは、19世紀末に彼の説がパスツールやドイツ人細菌学者のロベルト・コッホ(Robert Koch)、スイス生まれのフランス人アレクサンドル・イェルサン(Alexandre Yersin)らの発見により証明されてからだ。

 1924年、フランス人の医師で作家のルイフェルディナン・セリーヌ(Louis-Ferdinand Celine)は医学論文をゼンメルワイスにささげ、彼を「天才」と称賛した。

 今日、ゼンメルワイスは病院衛生と消毒の現代的理論の父と見なされている。

 だが、世界保健機関(WHO)の感染予防専門家、ディディエ・ピテ(Didier Pittet)教授はAFPの取材に対し、手の消毒は医療関係者に常識として受け入れられているものの、実践は、いまだに体系立てられていないと語った。同教授によると、手の消毒によって世界中の「院内感染の50~70%を予防できるにもかかわらず」、順守率は「平均して50%」だという。

 欧州連合(EU)圏内では毎年約320万人が院内感染しており、その結果、毎日100人が死亡している。

 ピテ教授は「アルコール液による手の消毒は安価で容易」であり、多剤耐性菌も含めて「感染率に対する影響が即効だ」と述べた。

 WHOが世界の1万9000の病院とともに立ち上げた手の消毒の重要性に関する啓発キャンペーン、「清潔なケアはより安全なケア(Clean Care is Safer Care)」の効果も表れ始めている。

 1990年代にピテ教授がスイスの病院で試験的に実施したプログラムの先例に倣い、オーストラリアおよび一部のアジアの医療施設での手の消毒率は約85%まで上がった。「20年前まで手の消毒率はわずか20%ぐらいだった。今や医療文献でも最もホットな話題となっている」と同教授。「ある意味で、これはゼンメルワイスの仕返しだ」(c)AFP/Philippe SCHWAB