【7月26日 AFP】女性の投票を禁じていたパキスタンの村で、女性たちが男性に逆らい、25日の総選挙に初めて投票に行くと宣言していたが、最終的に投票所に現れた女性は一人もいなかった。民主主義の基本である選挙権を女性たちが行使することなく終わった理由は、夫たちに脅迫されたからだという。

 パキスタンは家父長制が根強い国だが、中部の都市ムルタン(Multan)から約60キロに位置するパンジャブ(Punjab)州モーリプール(Mohri Pur)村では、1947年頃に長老の男性たちが女性の投票を禁じ、以来、女性たちはその規則に従ってきた。

 しかし、パキスタンの選挙法が変わったこと、また国内の一部で女性に対する態度が変わりつつあることから、今年はモーリプール村でも多くの女性たちが投票に行くと宣言していた。

 村の選挙人名簿に記載されているのは、男性約8000人に対し、女性は約3200人。だが、選挙管理委員会や村唯一の投票所を取材したAFP記者によると、女性は結局、1人も投票に現れなかったという。

 AFPの取材に応じたタンヤ・ビビさん(25)は「私たちは、もし投票に行けば離婚すると、夫たちから脅されたのです」と言いながら、学校内に設置された投票所の中には入らずに通り過ぎた。

 一方、男性たちは身分証を握りしめ、長蛇の列を作っていた。並んでいたムハンマド・シャムシェーさんは「私たちは投票に来ているが、女性たちは投票したことがない。それが、私たちが守り続けてきた古い伝統だからだ」と語った。

 女性に投票を呼び掛ける活動を行っていた弁護士のカシル・アッバス(Qasir Abbas)氏さえもが、最終的には妻を投票所に連れて行かなかった。「村人たちが私の家族を避けるようになるかもしれないと思うと怖かった」と、アッバス氏は語った。

 地元のNGOに所属するビスミラ・イラム(Bismillah Iram)氏は、村のモスクが、女性は投票所に行くべきではないとする声明を出したのだと述べた。

 モーリプール村の長老たちが数十年前、女性たちに投票所へ行くことを禁じたのは「名誉を汚す」からという理由だった。

「名誉」という言葉は、南アジア全体にみられる家父長制的な規範をよく言い表している。「名誉」はしばしば、保守的な伝統に逆らって自分で夫を選んだり、家の外で働いたりする女性が抑圧されたり、殺害されたりすることを正当化しようとする。