【7月10日 AFP】北朝鮮の人権問題を担当する国連(UN)のトマス・オヘア・キンタナ(Tomas Ojea Quintana)特別報告者は9日、同国政府に抑圧されている国民の人権問題が、同国と米韓との対話プロセスにおいて脇へ追いやられていると批判した。

 北朝鮮は自国民に対して数々の人権侵害を行っているとして、国連を筆頭に多くの非難を浴びている。しかしシンガポールで行われた米朝首脳会談後の共同声明でも、その前に開催された南北首脳会談後の板門店宣言(Panmunjom Declaration)でも人権問題について触れられることはなかった。

 訪韓中のキンタナ氏は「交渉を行っている関係者には、この重要な問題が目に入っていないようだ。この(対話)プロセスが最終的には北朝鮮に住む人々のためになるのに」と述べた。

 特にキンタナ氏が懸念しているのは、過去よりも未来を重視すべきだとするドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の発言だ。「こうした発言は、人権を擁護する私たちのような立場の者としては聞きたくない言葉だ」として、「とりわけ(北朝鮮の)指導者と交渉している当事者からは」と続けた。

 キンタナ氏は、広範な北朝鮮経済を標的とした制裁は人権に抵触しており、解除されるべきだと主張。さらに韓国の高官から、北朝鮮の人権問題については引き続き取り組んでいくが、「当面、優先課題ではない」と言われたと明かした。これまでキンタナ氏の北朝鮮訪問はかなっていない。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領による首脳会談を受けて、南北間では鉄道から林業まで、共同事業に関する協議がにわかに進展している。だがキンタナ氏は、これまでのところ、南北の関係改善が北朝鮮国民に恩恵をもたらす兆しはないと指摘し、人権と非核化および和平は相互に連動した問題だと述べた。

 2014年に国連調査委員会は、北朝鮮で「人権侵害がこれまでに、また現在も行われていることを明らかにした」と報告した。このときから事態は改善されていないと、キンタナ氏は言う。