【6月14日 AFP】2017年6月14日未明、ロンドン西部にある24階建て高層住宅「グレンフェル・タワー(Grenfell Tower)」の6階に愛猫のロージーと暮らしていたケリー・オハラさん(53)は、寝る支度をしている最中に何やら焦げ臭い匂いに気が付いた。

 屋外からの騒音を不審に思い、窓から外を覗いてみると、自宅の入っている建物が大きな炎に包まれていた。

「皆、私に飛び降りろと叫んでいた」と、71人の死者を出したこの悲劇から14日で1年になるのを前に、住民支援センターでAFPの取材に応じたオハラさんは語った。

「消防士からは、その場でじっとしているように、今助けに行くからと言われた。しかし、私は『助けて』と叫びながら右往左往するばかりだった。パニックに陥っていた」と当時を振り返った。

 最終的に、消防士の助言よりも恐怖心の方が勝ってしまったオハラさんは、自宅から脱出することを決めた。持っていく物を急いでかき集めたが、そのうちにロージーを連れていけないことに気づき、ひどく動揺したと述べた。

 20年近く住んだ部屋の最後の記憶は、ソファに座ったまま自身を見つめ返すこの時の愛猫の姿なのだという。

 部屋の外に出ると、建物内部にある唯一の階段にはすでに煙が充満していた。

「廊下周辺はとても暗く、煙が立ち込めていた。何も見えないので手探りで通路を移動しながら、階段にたどり着くまでずっと『助けて!』と叫び続けていた」

 どうにか2階まで降りると、他の住人や消防士たちがオハラさんを安全な場所へと誘導した。

 火災発生当日、ロンドン市消防局(London Fire Brigade)は、住民らに対して「その場に待機」するよう呼び掛けていた。しかし最近公開された報告書では、この方針は火災発生後30分で撤回されるべきだったとの見解が示されている。当日、待機の呼びかけが撤回されたのは、火災発生から2時間近く経ってからだった。

 建物からの脱出を自主的に決めたことが、自らにとっての生死の分かれ目だったとオハラさんは考えているという。

「あの助言に従わなくて良かった。もしその場に待機していたらどうなっていたことか。あまり考えたくはない」

「とても怖くて、脱出しなければならないということだけはわかった。あそこで死にたくなかった」