■救助が及ばない

 緊急事態に対し、時には医師らの力が及ばないこともある。緊急診療所の無線機に、ロシア人登山者が標高7250メートル地点に1人でいて、方向を見失って立ち往生しているという一報が入った。

 山頂を目指していた複数のチームが、ルステム・アミロフ(Rustem Amirov)さんのそばを通過しては無線で救助要請してきたが、自ら引き返して彼を救助しようとする人は一人もいなかった。

 医師らが、山にいる登山者たちに対しアミロフさんを助けるよう説得を試みると、誰かが水をあげ、別の誰かが高山病を和らげるステロイドを与えた。

「ここで待機しながら、いら立ちや無力さを感じます。いくつかのチームが一緒に行動を起こしてくれれば、救助は可能かもしれないのに」とオーストラリア人医師のブレントン・シスターマンス(Brenton Systermans)さんは話す。

 ようやく2人の登山者が、現場からわずか100メートルほどの所にあった最も近いテントまで、アミロフさんを引きずって行った。彼らは無線で医師らにそのことを伝えると、アミロフさんを残してそこを離れた。

「もし1時間以内に助けられていたら、生き延びられたでしょう」とアディカリ医師。だが孤独な登山者に対して助けは来ず、アミロフさんは5月17日に死亡した。(c)AFP/Annabel SYMINGTON