■残る「物的証拠」、収容所訪問をめぐる議論

 ホロコースト生存者が消えつつある中で、記憶の文化は、強制収容所や残虐行為が行われた場所などナチスによる犯罪の物的証拠に主眼を移している。ホロコーストを象徴する場所の見学を義務化することを呼び掛ける政治家もいる。

 ただ教師のぺータースさんは、そうした場所を訪れることは「一部の生徒にとっては精神的に非常に耐えがたく、その場で感じるプレッシャーに対して持ちこたえるのが困難」な可能性があると警鐘を鳴らす。

 ドイツ西部ベルゲン・ベルゼン(Bergen-Belsen)強制収容所跡の広報担当ステファニー・ビリブ(Stephanie Billib)氏はさらに、多くの場所は「(来訪者の)収容能力に限界がある」と言う。「さばききれないほどの学校の団体が来る。常に訪問の申し込みを断らざるを得ない状況だ」

 ビルブ氏は、こうした場所を訪問したからといって「人々が感化され、若い人たちが善良な民主主義者になる」ような効果はないと指摘する。

 それでも訪れる人が途絶えることはない。2人組のラップ歌手、コレガーとファリド・バン(Kollegah & Farid Bang)もそうだ。

 今年初め、アウシュビッツ強制収容所に収容された人々に関する反ユダヤ的な歌詞を含んだ彼らのヒットアルバムが、ドイツの主要音楽賞「エコー賞(Echo)」を受賞して物議を醸し、賞が廃止される事態となった。2人は深く反省したようで、ポーランドにあるナチスの強制収容所跡を訪問する予定だ。

 国際アウシュビッツ委員会(International Auschwitz Committee)のクリストフ・ヒューブナー(Christoph Heubner)副委員長は「彼らは犠牲者と生存者に敬意を払うだろう」と話す。「人間性についての再教育の授業となるはずだ」

(c)AFP/Tom BARFIELD