■侮辱と脅迫

 伊藤さんは治療を担当した病院の看護師から「尋問」のような質問を受けたとし、さらにひどいことに男性警官からは、等身大の人形を使って自分がレイプされた状況を説明するよう命じられたと話す。

「床の上で横になり、体の上に人形が置かれた。それを動かしながら『こんな感じだったのか?』と質問され、写真も撮られた。それはセカンドレイプのようだった」

 刑事事件として捜査が始まるまでに数週間がかかったが、警察からは山口氏は逮捕されると連絡が入った。

 だが突然、警察は手を引いた。その後、伊藤さんは山口氏を相手取り、民事訴訟を起こした。山口氏は伊藤さんの主張を全面否定している。

 自らの苦しい体験を記した著書を発表し、最近では米ニューヨークの国連(UN)本部で記者会見を開いている伊藤さんは、「ふしだらな女、売春婦といったののしる内容のメールが送られてきた」「中には脅迫的なものもあり、家族に危害が及ぶのではと恐怖を感じた。恐ろしかったし、外出できなかった」と語る。

 伊藤さんの事件は日本で一定の議論を呼び起こした。しかし、2015年の政府統計によるとレイプ被害者の4%しか警察に届けないこの国で、彼女の後に続いて被害を公にする女性は多くない。

 ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者のための支援NPO「レジリエンス(Resilience)」の代表で、自らもDVサバイバーである中島幸子(Sachiko Nakajima)さんは「#MeToo ムーブメントは、ハーヴェイ・ワインスタインのケースが転換点となったことは明らかだ。伊藤さんの件では、小さな波紋を呼びはしたが、転換点とまではなっていない。彼女のケースでさえ何も起きていないし、誰も逮捕されていない」と話す。

 中島さんは、性犯罪に関する刑法は100年以上も前にできたもので、ようやく国会が「強姦(ごうかん)」の定義を広げ、刑期の下限を引き上げたのは昨年だったと非難する。「これはシャベルで山を動かすようなもの。110年ぶりの改正はあまりにも遅すぎる」