【3月15日 AFP】ロシアの地方都市で若き政治ジャーナリストとして働いていたソフィア・ルソバ(Sofia Rusova)さんは、ある議員から性的なテキストメッセージを何度も送り付けられたり、待ち伏せされたりした上、自宅アパート近くで襲われさえした。

「ショックで、しばらくは通りを1人で歩けませんでした」と語るルソバさん。この経験から分かったことは、警察には全く対応する気がなく、大半の同僚たちもそうした状況を真剣に受け取ってくれないということだった。

「私がこの話をした人たちの中には、面白おかしい出来事だとか、そういう対象になったことを喜ぶべきだとか言う人たちさえいました」。最後はルソバさんの父がこの議員に立ち向かってくれたことで、ようやくそうした圧力が弱まった。

 欧米諸国では「#MeToo(私も)」運動が席巻しているにもかかわらず、セクハラを問題としてではなくジョークとみなすロシアでは、ルソバさんの話は典型的な例だ。

 英BBC放送の記者、ファリダ・ルスタモバ(Farida Rustamova)さんは今月6日、レオニード・スルツキ(Leonid Slutsky)下院議員の事務所で面会した際、同氏に体を触られ、「援助」と引き換えに愛人になるよう求められた際の音声録音が存在することを明らかにした。

 この出来事が起きた2017年3月当時、ルスタモバさんは「一人でこの件を公にすることを恐れた」が、この数週間で複数の女性たちが声を上げたことにより勇気を与えられたと語った。

 しかし翌7日、報道陣がバチェスラフ・ボロディン(Vyacheslav Volodin)下院議長にこうした告発に関する意見を求めると、怖いと思う女性たちの方が仕事を辞めればいいと発言。現地紙ベドモスチ(Vedomosti)によると、下院議長は国際女性デー(International Women's Day)のこの日、「議会で働くのは危険だって? もしそうなら転職すればいい」と語った。

■ロシアの「ハーヴェイ・ワインスタイン」

 今年2月以降、スルツキ氏を告発した女性はルスタモバさんで4人目だった。告発した女性たちは当初、名前を伏せていた。

 スルツキ氏は、自分の政敵が命じた政治的攻撃だと主張し、「(こうしたスキャンダルは)私の重要性を失墜させるどころか、むしろ浮かび上がらせるものだ」とまで語った。

 さらに同氏は、自身のフェイスブック(Facebook)ページで、「スルツキをロシアの『ハーヴェイ・ワインスタイン』に仕立て上げようという試みは、安易で稚拙な挑発だ」と書き、さらにコメント欄で他の下院議員と、女性ジャーナリストを「分け合おう」という冗談まで交わした。

 同僚議員のアントン・モロゾフ(Anton Morozov)氏は、女性たちが陰謀に加担して一芝居うったのではないかと主張。「ロシアのジャーナリストたちは、彼の名誉を傷つけろという命令を欧米諸国から受け取ったのだろう」と語った。さらにロシア議会の女性議員らも、スルツキ氏を糾弾した女性たちを厳しく批判した。

 唯一、ジャーナリストたちの擁護にまわったオクサナ・プシュキナ(Oksana Pushkina)議員は、同僚の女性議員らから、セクハラとの闘いは今でも低迷しているロシアの出生率をさらに悪化させると警告されたと語った。

■「行き場はない」

 女性の権利は、理論上はソビエト連邦初期の建国理念の中核を成していた。3月8日の国際女性デーは今でもロシアの祝日となっている。しかし実際には、旧ソ連の女性たちのライフスタイルにみられた主な変化は、仕事を持つと同時に家事をこなすよう期待されたことだった。

 近年、ロシア政府が男女の役割について保守的な見解を褒めそやし、フェミニズムは自国が敵対する欧州の風潮だというレッテルを貼る中、女性たちの権利はさらなる打撃を受けている。プシュキナ議員によると性的暴行でさえ訴訟に発展するのはまれで、「セクハラ事案はすべて、告訴の段階でもみ消される」という。

 約20年にわたってロシアを率いているウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が、フェミニストでないことは間違いない。

 プーチン氏は2006年、複数の性的暴行を告発され辞任に追い込まれたイスラエルのモシェ・カツァブ(Moshe Katsav)元大統領について、「なんてパワフルな男だ! 10人もの女性をレイプするなんて! 彼がうらやましい!」と語ったと、ロシア紙コメルサント(Kommersant)が当時伝えている。

 女性権利擁護団体「The W Project」のアリョナ・ポポバ(Alyona Popova)代表は、「おそらくスルツキ氏には何のおとがめもなく、議員であり続けるでしょう」と語る。

 ルソバさんも悲観的で、「人々は権力のある人物の味方をするでしょう。なぜなら私たちの社会では、女性を非難する方が簡単だから」「もしもこうした立場に置かれたら、どこにも行き場はないのです」と語った。(c)AFP/Maria ANTONOVA