■「ヒューマンマシーンは複雑」

 最適な条件をすべて兼ね備えたアスリートは、まだ見つかっていない。エチオピアの伝説的長距離ランナー、ハイレ・ゲブレセラシェ(Haile Gebrselassie)氏は2008年、35歳で自身の持つ記録を更新した。しかし彼の「VO2 Max」は時間の経過と共に落ちていった。VO2 Maxとは、運動中に取り込まれる酸素最大量のことで、持久力の指標となる。

 こうした非常に人間的な制約がある中において、予想モデルを超えて進化をもたらすものとは何か? それはドーピングなのだろうか?

 フランス反ドーピング機関(Agence Francaise de Lutte contre le DopageAFLD)の専門家は、まだドーピングに関してはパニックに陥るところまでは来ていないとしながらも、「トレーニング効果を高める」ために使用されるエクササイズ・ピルや、酸素吸収率を高めてアスリートが疲労を感じることなく、よりハードにより速く走ることのできるEPO(エリスロポエチン)ドーピングなど、懸念すべき点は複数あると語る。

 幹細胞治療については、一見する未来のことのように思えるかもしれないが、すでに一部のスポーツでは傷の治療に用いられている。将来的に、最も大きな問題となりそうなのが、この遺伝子ドーピングなのだ。

 しかし「筋肉繊維の『IDカード』は数千個の遺伝子が基になっているため、すべてを変えることはできない。ヒューマンマシーンは複雑なのだ」とAFLDの専門家は指摘する。

 動物並みの速さで走れるように人体を改造するには──もしそれが可能であればの話だが──長い年月と無数の科学的限界の超越が必要となる。そして絶対に変わることの無い条件は、「人の命が維持されること」だと語っている。(c)AFP/Andréa BAMBINO