■「人生はあっという間に過ぎてしまう」

 だが、1953年3月のスターリンの死については記憶があまりない。「不幸な大事件が起きたわけでもないのに」と、言いながらリャブツェバさんは肩をすくめた。「皆、彼のために悲しんでいた」

 抑制されたユーモアセンスが今も衰えていないこの高齢女性の記憶に鮮明なのは、1961年に夫婦で初めてのアパートに移ったときのことだ。帝政ロシア時代の首都、サンクトペテルブルク西方にある寝室が1つ付いたアパートだった。「本当に素晴らしかった。水道からお湯が出て、セントラルヒーティングがあって、これ以上のものは望めないと思いました」

 苦しい戦後復興期に地方にある集団農場の共同住宅で一家で凍えながら約10年間を過ごしたリャブツェバさんにとって、このアパートは「天国」だった。

 ペレストロイカが始まった1980年代になると、人々は旧態依然としたソ連の体制に対し、あからさまに不満をぶつけるようになったが、「私の人生は大して変わらなかった。前より大変になったこと以外」とリャブツェバさんは語る。だが、1999年にプーチン氏が首相に就任すると、日々の暮らしは目に見えて良くなったと言う。

 40年以上前に夫を亡くしたリャブツェバさんは現在、自分のアパートで孫娘の家族と一緒に暮らしている。政治には興味がなく、11月7日に迎えるロシア革命100周年も祝うつもりはないと言う。「革命があってもなくても、私の人生は同じだったと思う。自分で何かを変えられることなんてできないものですよ」

「幸せだったかって? 分からない。私はただ生きてきただけ。人はこの世に生まれたら、あとは生きるしかないでしょう? 大事なことは、人生は本当にあっという間に過ぎてしまうということです」(c)AFP/Marina KORENEVA