■以前はまれだった「嫉妬」

 青海師範大学(Qinghai Normal University)の人類学者、フェン・ミン(Feng Min)氏の論文によると、この変化によってザバ社会に人を所有物とみる考え方が広まり、以前は明白に表現されることがまれだった嫉妬という概念が生じるようになったという。

 フェン氏が2004年に行った調査では、通い婚の伝統を今も実践していると答えたのはザバ社会全体の49%にとどまった。

 通い婚を続けている家族の子どもたちは、緑の丘に立つ黄色い石造りの6階建て共同住宅で、母親やそのきょうだいたちによって育てられる。父親らは自身の母親とともに暮らし、子どもらになんらかの経済的支援を行うこともある。

「私には夫はいない。この子たちの父親は別の場所で暮らしている」。家長の女性、ドルマ・ルハモさん(60)は、朝食のヤクバター茶と炒ったツァンパ(ハダカムギの種子を挽いた粉の団子)を手でひょいと掴んで口に運びながら答えた。その後、一家のじゃがいも畑の手入れをするため娘2人を連れて外へ出た。

 小売店を営むペマ・バジュさんは、以前は母親や祖母、きょうだい、おじらと共同生活を送っていたが、最近、実家を出て夫や2歳の息子と一緒に暮らす選択をした。バジュさんは「今は夫婦で家庭を築く方が一般的。その方が便利だし、子育てにもいい」と話した。

■独自の伝統は消滅する

 この地域にはさらに大きな変化が迫っている。世界で最も高所にあるダムの一つが間もなく放流されるため、村人たちは先祖代々の土地からの立ち退きを余儀なくされているのだ。「胸が張り裂ける思いだ。われわれの土地がめちゃくちゃにされているのに、何も言う権利がない」とノーブさんは語る。しかし、彼もこの現場で働く短期作業員の一人だ。

 建設中の高速道路が完成すれば、最も近い都市までの所要時間が半分となり、かつては手つかずの自然が残る隔絶された土地だったこの場所にも、観光客が押し寄せるだろう。

 ノーブさんの友人のクハンド・ツセリングさんは、「経済は発展するだろうが、人々は堕落的になるだろう。何にでも金銭がからむようになり、われわれ独自の伝統は消滅する。今の時代はそういう仕組みなんだ」と話した。(c)AFP/Becky Davis