■混乱と決断

 アルカディ氏は今年始め、家族とともにイラクからの避難を余儀なくされた。その際に2か月にわたって取材を続けていた緊急対応部隊 (ERD)に関する資料を一緒に持ち出した。戦争犯罪の証拠となる写真やフィルムだった。

 ERDが拷問をするようになってからも、同氏は部隊と行動を共にした。その理由については、以前に米ABC(ABC)テレビで、同部隊の兵士らを英雄として描いたことに対する罪の意識があったからだと語っている。

 アルカディ氏はAFPの取材に対し、「私は2人の英雄(その部隊の司令官ら)が悪事を手を染めるのを見た」と話し、「彼らは人々を拷問し、女性たちをレイプした。私の心の中で全てが変わった。私は混乱した。そしてさらに追究しようと決めた」と当時の決断について語った。

 数十年にわたって中東報道に携わってきたボーウェン氏は、アルカディ氏によって暴露されていなかったら、実態は報じられないままとなっていただろうと述べ、このような事情も授賞の決め手の一つとなった説明した。

 今回の審査には関わっていないが、英紙ガーディアン(Guardian)の著名な英国人戦争写真家であるショーン・スミス(Sean Smith)氏も、アルカディ氏を非難することはできないと語る。

 スミス氏は、アルカディ氏がその様な状況に追い込まれたのは、報道機関の取材体系に問題があるからだと指摘する。同氏によると、危険な紛争地域での取材のため、経験の浅いフリーランスの「通信員」を地元で雇うというやり方が往々にして繰り返されているというのだ。

 大手報道機関が熟練記者をますます派遣しなくなっており、大変な手抜きとなっているため、実質的に全ての記事がこの契約通信員とソーシャルメディアから来ているとスミス氏は話す。

 また、これらの通信員はしばしば、「取材の経験が何もない状態から、いきなり過激な出来事を取材する立場に置かれる」ため、単に素材を写真通信社に送り付けるだけの存在となっており、一方の通信社も「多くを取材しなくなっているにも関わらず、その存在価値をアピール」したいだけなのだと辛辣な意見だ。