【9月25日 AFP】ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相(63)は欧州の「緊縮の女王」と揶揄(やゆ)されてきたが、その一方で、難民からは救世主として歓迎され、新たな「自由世界の指導者」としての評価も高い。冷戦時代に鉄のカーテン(Iron Curtain)の旧東ドイツ側で牧師の娘として育ち、欧州一の経済大国ドイツの連邦議会(下院)総選挙で4選を確実にしたメルケル氏を国民の多くは「不滅の首相」と呼ぶ。

「ムティ(母さん)」とも呼ばれ、現実的で穏健路線を取るメルケル首相は、変化より持続性を好み、高齢化が進む富裕国ドイツで権力を保持するコツを会得している。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)やドナルド・トランプ(Donald Trump)氏の米大統領就任、その他の世界規模での危機的状況の数々のなか、メルケル氏は他国がうらやむ経済成長と雇用率を維持することに関心を向け続けることのできるドイツの支柱となってきた。

 メルケル氏が大切にしている信念が一つあるとすれば、それは共産主義国の東ドイツで育ったことから得た教訓だ。つまり、急速に変化する世界経済の中でドイツと欧州は何としてでも競争力を保ち、負債ゼロで居続けなければならないという強い信念だ。

 2005年にドイツ史上最年少、初の女性として首相の座に就いて以来、人々はメルケル氏とその党を選択し続けてきた。同時期にそれぞれの国を率いていた、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)氏、トニー・ブレア(Tony Blair)氏、ジャック・シラク(Jacques Chirac)氏の各政権は、とっくに終わりを迎ている。

 権力という虚飾に無関心のように見えるメルケル氏は現在も、ベルリン(Berlin)市内の集合住宅の一室でマスコミ嫌いの科学者の夫、ヨアヒム・ザウアー(Joachim Sauer)氏と共に暮らし、地元のスーパーで買い物をしたり、休日にはアルプス(Alps)にハイキングに出かける生活を続けている。

 メルケル氏は昨年、米大統領選でトランプ氏が予想外の勝利を収め、マスコミからリベラルな民主主義を担う新たな旗手と持ち上げられた際には「グロテスクでばかげた」考えだと、これを一蹴している。