【9月12日 AFP】信じられないほどスリムでゴージャス、一つの欠点もなく美しい女性たちのイメージが何年もの間、ファッション雑誌や広告看板、テレビのスクリーンにあふれていた。しかし今、26歳のイギリス人モデル、イスクラ・ローレンス(Iskra Lawrence)はファッション界における、あり得ない美の基準との闘いに挑んでいる。SNSを通じ、多様性について全力で訴えかけているのだ。

 ローレンスは、ますます増えつつあるプラスサイズの有名モデルの1人。自身を「ボディ・アクティビスト(身体活動家)」と呼び、健康的で幸福なライフスタイルを提唱している。彼女はクライアントに、自分の写真をフォトショップ(Photoshop)で画像加工しないように求めている。

「フォトショップの概念は、幻想だもの」とローレンスは語る。彼女は次なる撮影でアイスランド(Iceland)のビーチへ旅立つ前の貴重な休憩時間に、AFPの取材に応じてくれた。「それらは欠点ではなくて、あなたの体の一部。私たちは社会とメディアによって、なにか間違っているかのように信じさせられていた」

 イギリスでは、約57パーセントの女性が肥満度指数(BMI)の平均以上とされる。アメリカではその数字は62パーセントにも上り、女性の平均サイズは14~16。ローレンスは平均するとアメリカサイズの10~12だが、それでもモデルとしては太りすぎていると、何年もの間、言われ続けてきた。ランウェイでのサンプルサイズはゼロサイズになることもあるからだ。

 しかし変化は進行中だ。アシュリー・グラハム(Ashley Graham)は昨年、スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)誌の水着特集の表紙に選ばれた、初の”曲線美”モデル。今や誰もが知っている存在だ。

 グラハムは2月のファッションウィークで「マイケル・コース(Michael Kors)」のランウェイを歩いた初めての曲線美モデルとなる。また今シーズンは、ファッションサイト「デイリー・フロントロウ(Daily Front Row)」が主催するファッションアワード・ナイトのホストを務め、10日には再び「プラバル・グルン(Prabal Gurung)」のランウェイをジジ・ハディッド(Gigi Hadid)とともに歩いた。

■完璧である必要はない

 モデルだけではない。ポップカルチャーにも突如、曲線美を誇る強い女性像が溢れている。歌手のアデル(Adele)やビヨンセ(Beyonce)、コメディアンのエイミー・シューマー(Amy Schumer)やメリッサ・マッカーシー(Melissa McCarthy)、そしてテニス界のスター、セレーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)などだ。

 数日前、「ディオール(Dior)」や「サンローラン(Saint Laurent)」など数多くのトップブランドを所有する、フランスの高級ブランドグループ「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)」と「ケリング(Kering)」は、度重なる拒食症に関する報道を受け、サイズゼロのモデルを広告やファッションショーで起用しないと約束した。

 現在ニューヨーク(New York)を拠点とするローレンスは、週に何度も飛行機に飛び乗る。「アメリカンイーグル(American Eagle)」や、そのランジェリーライン「エアリー(Aerie)」のキャンペーンに起用され、インスタグラム(Instagram)のフォロワーは400万人に近い。

 6年前、ローレンスはロンドンの契約担当者に面と向かって笑われ、仕事でニューヨークに行くことは絶対に叶わないだろうと告げられた。「傷ついた」と彼女は当時を振り返る。それから彼女は2013年に設立された大手モデル事務所「JAGモデルズ(JAG Models)」と契約を交わし、ニューヨーク・ファッションウィーク(New York Fashion Week)のランウェイを歩き、タイムズスクエア(Times Square)の広告に無修正で登場した。「未加工のイメージを見ることで、人々は完璧である必要はなく、そのままで良いのだと気付いてくれる」と彼女は語る。

 さらにローレンスはイギリスの学校やアメリカの大学に、身体的、情緒的、精神的な健康を促進するようにメッセージを投げかけた。「拒食症およびその関連障害のための協会(The National Association of Anorexia Nervosa and Associated Disorders)」によると、アメリカでは幅広い年齢やジェンダーの3000万以上もの人々が、摂食障害に苦しんでいるという。「私はSNSで毎日のように、私の存在によって摂食障害や自殺願望から救われたという女の子たちからダイレクトメッセージを受け取る。それは素晴らしい、前向きな動きだ」とローレンスは語る。

■”太った女の子”をショーで見る日のために

 しかし、曲線的な体形のモデルたちを目にする機会が増えたとはいえ、いまだ比較的珍しい存在だ。とくにハイファッションにおいては、プラスサイズの市場に適切に応じている有名ブランドは数少ない。

 あらゆるサイズの美しい女性を代表する必要性を感じ、2013年に「JAGモデルズ」を共同設立したジャクリーン・サルカ(Jaclyn Sarka)。現在彼女の事務所では、約65人のモデルを抱えており、もっとも大きな女性はサイズ20だという。「まだ道のりは長い。多くの人々は”太った女の子”をショーで見ることを望まない」とジャクリーンは語る。「実にひどいことだ。私はもうすぐ娘を出産するが、娘には、現実的ではない人々に憧れてほしくない」

「マックスマーラ(Max Mara)」グループの傘下にある「マリナ リナルディ(Marina Rinaldi)」のマネジング・ディレクター、リン・ウェバー(Lynne Webber)も同意する。ラグジュアリー業界のプラスサイズ市場の中心的人物である彼女は「明確な転換期にあると思う」と語った。「より民主的なコミュニケーションチャンネルであるSNSの成長により、あらゆるタイプの女性が視界に入ってくるようになったおかげだ」。

 しかし50ヶ国以上で展開している同ブランドは、さらなるライバルを求めている。「女性問題の擁護者としては、高級ブランドらがこの層に向けて語りかけたがらないことを遺憾に思う」とウェバーは語った。(c)AFP