【6月2日 AFPBB News】憂いを帯びた瞳、柔らかそうな唇、何か語りかけてきそうな表情でこちらを見つめるシリコーン製の人形たち。国内の老舗ラブドールメーカー「オリエント工業(Orient Industry)」の創業40周年記念展「今と昔の愛人形(LOVE DOLL)」が、東京都渋谷区のギャラリー「アツコバルー(Atsukobarouh)」で11日まで開かれている。初日から日を追うごとに来場者が増え、人間と見まがう造形に感嘆の声を漏らしている。

 会場には、初期の製品を含む17体のラブドールや写真パネルが展示され、平日の昼下がりにもかかわらず、男女さまざまな年代の来場者が引きも切らない。「オリエントの特色は、造形とメーク」と同社の土屋日出夫(Hideo Tsuchiya)社長(73)の言葉を証明するように、ラブドールの顔にスマートフォンを近づけ、目もとなどの細部を写そうと熱心に写真を撮る女性の姿も多く見られた。

「男性が求める女性像がどういうものか見たくて」来場した都内在住のフリーライター、神田聖ら(Seira Kanda)さん(30)は、「アニメみたいに変な体つきの強調がない。自分の友達にいそうで、近い存在に感じた」と造形のリアルさに驚く。

 同社は1977年の創業以来、単なる性具としてではなく、「癒やし」、「心の安らぎ」を得られるラブドールを目指し続けてきたという。創業時は2、3人だったスタッフも、今では25人に増えた。造形やメーク専任のスタッフを採用し、障害のある顧客や医療関係者の声も取り入れながら改良を重ねてきた。

 同社では、ラブドールの納品時に、手に指輪をはめる。「娘を送り出す気持ち」になると土屋社長。顧客が手放す際は、ラブドールを「里帰り」と称して引き取り、人形の供養を行う。顧客からも、自身の心境の変化を反映してか「日によってドールの表情が違う」という声を聞く。会社には日々礼状が届き、その一つ一つが全員の励みになっているという。

 下半身の植毛やボディー内部に骨格を入れるなどのオプションも増え、年々進化を続けるラブドール。「会話機能を」との要望も届くが、人工知能(AI)を搭載する予定はない。「お金持ちしか買えないものにしたくない。お客さんの気持ちがすっと入れるものを」と土屋社長。変わらぬ姿勢が、同社の人気を支えている。(c)AFPBB News