■「全体主義」

 いじめの問題に詳しい明治大学(Meiji University)の内藤朝雄(Asao Naito)准教授は、日本の教育システムは個性を抑えつけるために、周りと違う子どもがいじめの対象になりやすいと指摘する。 「そういう日本教育のあり方の全体(主義)の中に、たまたま今回の福島から逃げてきた人のいじめも入っている」と、内藤氏は言う。

 最近、横浜市に避難していた少年が、同級生から「賠償金」をもらっているだろうと言われて非難され、総額約150万円をゆすり取られていた問題が明らかになり、激しい怒りを呼んだ。少年はまた、たたかれたり乱暴を振るわれたりしていたという。彼は何年間も苦痛に耐えながら、いじめっ子たちに渡すために家から現金をひそかに持ち出していた。

 少年の代理人を務める飛田桂(Kei Hida)弁護士によれば、少年が家族に打ち明けられなかった理由は、母親も近所でいじめに遭っていることを知っていたからだ。「お母さんがゴミを投げつけられたり、怪文書みたいに出て行けと書かれたものが入っていたりした」と、飛田氏は言う。

 弁護士の黒澤知弘(Tomohiro Kurosawa)氏は、こうした問題の一因は、原発事故の責任が追及されないために、日本人の多くが福島から避難してきた人々を「被害者」とみなしていないことだと指摘する。

 事故以来、逮捕された人物は一人もおらず、東京電力(TEPCO)救済のために公金が投入され、安倍晋三(Shinzo Abe)首相率いる政権は原発の再稼働に積極的だ。

「被害者が何かを言うと、逆にこの国の中では不利益な立場というか、要するに国に批判的に受け取られてしまう」と、黒澤氏は言う。「被害者であるようで、被害者であるかがはっきりしないという位置付けのあいまいさが、周囲の無理解とか批判をより呼び込みやすくしてしまっている」

 第2次世界大戦中の広島、長崎に落とされた原爆の被害者らの代理人を務めてきた黒澤弁護士は、福島の被災者に着せられる汚名は、生き残った被爆者に対する苛酷な仕打ちの歴史の繰り返しだと言う。被爆者らは原子力時代の最初の犠牲者であり、その苦しみにもかかわらず、被爆に対する偏見のために、特に結婚相手としては多くが敬遠された。

 関根さんと青山さんが福島に戻って通い始めた学校は、原発事故による汚染地区からの生徒を主に受け入れるために設立された学校だ。彼女たちはここで、自分たちの地域の試練を描いた劇を、他の生徒たちと一緒に演じている。

「仲間同士、そういう中で少しずつ傷が癒されていくというんですか」と、彼女たちの教師の小林俊一(Shunichi Kobayashi)氏は語る。 「いろんな目に遭って戻ってきた子が多いので、逆に連帯感が非常に強いんですよね」。トラウマを感情に出して演じることは、その痛みの克服を助けると同氏は言う。

 そして関根さんは、もう死にたいとは思わなくなったと語る。「まだ福島は生きているから、自分が逃げたらおしまいだなって」(c)AFP/Harumi OZAWA