■ベッドが空くことの意味

 幸福の家の入居費は、テレビと暖房付きの3人部屋で月120ドル(約1万3700円)。食費と介護料も含まれる。施設は4階建てで、うち1フロアは入居費を支払うことのできない人専用になっている。

 このホームはシリアが内戦に突入した2011年よりも前からすでにほぼ満員状態だったが、入居希望者は月に1人か2人しかいなかった。しかし、少なくとも31万人が死亡し、数百万人の避難民を出した内戦が始まってからというもの、家族のいない高齢者が押し寄せるようになった。

 ラミス・ハファル(Lamis al-Haffar)所長(82)によると、今では毎日、入居希望の申し込みがあるという。ハファル所長はホームを運営する慈善団体が25年前に設立されたときから関わってきた。今では自らも歩行器を使い、老いた足を引きずりながら、ホーム全体の運営からシチューの塩加減まですべてを見て回っている。「多くの若い人はやむを得ず逃げることになった。取り残された親たちは、自分だけでは暮らしていけない」

 ダマスカスにある老人ホーム7か所のうち、3か所は私営で、4か所が国営だ。ハファル氏は「ベッドが空くたびに悲しくもあり、うれしくもある」と言う。「それは誰かが亡くなったことを意味するが、同時に、どこにも寝床を見つけられないでいる誰かに避難場所を提供できる」からだ。

「ここのベッドを手に入れることは、そうした大変な状況にある多くの高齢者にとって最後の夢になっている」とハファル氏は語った。(c)AFP/Maher Al-Mounes