■「テレビの賞で初めて自分が認められるわけじゃない」

 2013年には、内省的なヒップホップの先駆的存在であるフランク・オーシャン(Frank Ocean)のデビューアルバムが年間最優秀アルバム賞にノミネートされたものの、受賞したのは英国のフォークロックバンド「マムフォード&サンズ(Mumford & Son)」の作品だった。同年のグラミーでオーシャンは、5部門にノミネートされていた。

 今回のグラミー賞選考の候補作品として2枚目のアルバム「ブロンド(Blonde)」を提出しなかったオーシャンは、授賞式後にグラミー賞委員会に公開書簡を送り、授賞式によってもたらされる「文化的偏見と一般的な心理的ダメージ」について話し合うよう求めた。

「テレビの賞を受賞することによって初めて自分が認められるわけじゃない。それを学ぶのに少し時間がかかった」とオーシャンは述べている。

 グラミー賞は、全米レコード芸術科学アカデミー(Recording Academy)の会員1万3000人以上の投票によって選出されるが、ビヨンセはアカデミーからずっと黙殺されてきたわけではなく、これまでに22個のグラミー賞を獲得している。

 だが、年間最優秀アルバムについていえば、スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)は同賞を3度受賞した最多記録を持つ一人だが、同部門は特に黒人の女性アーティストにとっては狭き門らしく、これまでに受賞したことがあるのはナタリー・コール(Natalie Cole)、ローリン・ヒル(Lauryn Hill)、ホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)の3人しかいない。

 ビヨンセの「レモネード」 は、過去と現在との境をぼやかす。過去の南部での奴隷制度の中で自立する米国人女性を描き、そして暴力や不貞をテーマに取り上げ、21世紀の米国とリンクさせる。

 米ミシガン大学(University of Michigan)で歴史と女性学を教えているラキーシャ・シモンズ(LaKisha Simmons)助教はビヨンセの「レモネード」について、「黒人女性たちが過去と現代の社会でどのように扱われてきたか、そうした中で自分自身を愛することをテーマにした作品だ」と指摘する。

 一方で、ビヨンセが主要部門で受賞できなかったことについて、「彼女は大丈夫だろう。でも問題は私たち。(受賞できなかったことで)傷ついている。まるで、現実をみなさいと言われているみたいで」と語った。(c)AFP/Shaun TANDON