■明確なヒエラルキーの下で格付けされた700人の芸術家

 万寿台は、小さな村ほどの規模を持つ広大な施設で、コンクリートの広大な建物の中にある多数の作業場では4000人近い人々が働いている。

 1959年に故・金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)国家主席が創設したこの施設の正門をくぐると、馬に乗った金日成氏とその息子で後継者の故・金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の巨大な像が訪問客を出迎える。

 工房では総勢700人の芸術家が雇われており、彼らは明確なヒエラルキーの下で格付けされている。最上位を占めるのは、ロ氏のように「人民芸術家」に分類される約30人の人々で、外国旅行を許されたり、施設内で専用のアトリエを提供されたりするなど、多くの恩恵を享受できる。

 北朝鮮の芸術界は厳しく統制されており、一流の芸術家といえども、給与には作品の売却価格はほとんど反映されず、月給制だ。また、抽象芸術は当局から反革命的とみなされているため、扱われていない。

 北朝鮮のアート市場の特殊性に精通していない人々は、作品の来歴に疑問を抱くかもしれない。一流の芸術家たちは、自身の作品がより多くの人々の目に触れるよう、人気が高い作品のレプリカを複数制作することも多く、また同業者にそれらを模造させることもある。

 彫刻の価格はさまざまだが、トップクラスの「人民芸術家」の大きな作品になると数万~数十万ユーロする。

 北朝鮮の芸術は今も極めてニッチな市場で、収集家による売買が定期的に行われている数少ない場所の一つが中国だ。万寿台から直接購入することも可能だが、経済制裁がそれを難しくしている。(c)AFP/Giles HEWITT