■楽譜があっても、演奏はそれぞれ

 昨年秋に刊行した書籍『教えてピエール・エルメ。最高のお菓子の作り方』(世界文化社)をはじめ、これまで何冊ものレシピ本を世に送り出してきた。「スイーツは、分量が細かく決められたロジカルなもの」とエルメは語るが、ブランドの要ともいえるレシピを惜しげも無く公開するのはなぜなのか。

「(フランスの作曲家)ラヴェル(Ravel)の『ボレロ』の楽譜があったとしても、皆が同じように演奏できるわけではない。ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan)や小澤征爾(Seiji Ozawa)が指揮したらきっと上手い演奏になるんだろうけどね(笑)」とエルメ。選び抜いた調理道具に、積み重ねたノウハウ、一流のパティシエ、最高の素材--オーケストラのように、そのすべてのパートが揃って初めて「ピエール・エルメ・パリ」の商品が完成するので、レシピの公開を躊躇する必要は全くないのだという。

青山店リニューアルオープンに合わせ来日したピエール・エルメ(2016年12月16日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

 それよりも、むしろ職人として「技を秘密にするのでなく、次世代に伝えなければという義務感を持っている」と語る。「積極的に公開することで、伝統が伝わるのみならず、発展し、次世代のなかで活かされていくものだと考えている。また、レシピの公開は、お客さんとのコミュニケーションでもある」

■スイーツは“喜びを与えるもの”

 昨年6月には、食文化への多岐にわたる功績が称えられ「世界のベストレストラン50アカデミー(The World’s 50 Best Restaurants Academy)」が選ぶ「世界の最優秀パティシエ賞(The World’s Best Pastry Chef 2016)」を受賞した。今まで通り進化し続けなければと襟を正す一方、「この先も、恐れず大胆に挑戦して良いのだと背中を押されたようでもある」と受け止めている。

「フランスでは、料理は“生きるための必需品”、スイーツは必需品ではないが“喜びを与えるもの”と言われているように、人々を幸せにすることが自分の仕事だと思っている。パティスリーの4代目として生まれ、子どものころから常に自分の周りにはスイーツがあった。自身の経験だが、毎日それをとても幸せに感じていたんだ」

ピエール・エルメ・パリ 青山店内の様子(2016年12月16日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

 今後について聞いてみると、「これ以上は詳しく話せないけどね」と笑いながら、マカロンを“宇宙食”にする企画を進行中だと明かしてくれた。スイーツ界の巨匠は、世界をあっと驚かせるようなアイデアを、まだまだ心に秘めていそうだ。

■店舗情報
ピエール・エルメ・パリ 青山
住所:東京都渋谷区神宮前5-51-8 ラ・ポルト青山1・2F
電話番号:03-5485-7766
営業時間:10:00~20:00

■関連情報
ピエール・エルメ・パリ 公式HP:www.pierreherme.co.jp
(c)MODE PRESS