■「常に抱いている恐怖心」

「常に恐怖心を抱きながら生きている」というフジュロールさん。一番ショックを受けたのは、昨年6月にマニャンビル(Magnanville)でイスラム過激派の男に警察官とそのパートナーが殺害された事件だ。現場は自宅から数キロしか離れていない。しかもフジュロールさんの4人娘のうちの1人は事件発生当時、現場からわずか200メートルの場所で柔道の稽古を受けていたという。

 フジュロールさんがルペン氏に関心を持ち始めたのは、そのときからだ。ルペン氏のテロ対策は妙案だとフジュロールさんは話す。「もしルペンという名前でなければ、何のためらいもなく彼女に投票していたはず」

 ルペン党首は、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで知られ、外国人嫌悪を露骨に示すジャンマリ・ルペン(Jean-Marie Le Pen)前党首の一番下の娘だ。

 40年近くにわたってFNを率いてきた父親から、2011年に同党を引き継いだルペン氏は、人種差別的で反ユダヤ的という党のイメージの払拭(ふっしょく)に努める一方、景気低迷と、欧州にとって第2次世界大戦(World War II)以降最大の移民危機に起因する懸念を逆手に取ろうとしている。

 また、攻撃事件を受けて国民の間に広がった恐怖心に付け込み、警備態勢を強化し、フランス社会へのイスラム教文化の広がりを阻止することを公約に掲げている。

 ルペン党首のいわゆる「脱悪魔化」戦略は得票に直結し、2015年の地方選挙では、決選投票でこそ主要政党が一丸となってFNの勝利を阻止したものの、第1回投票では28%という得票率を示した。

 今年4月に行われる大統領選の第1回投票では、ルペン氏が2位、場合によっては1位になる可能性も取り沙汰されている。決選投票では、右派候補のフランソワ・フィヨン(Francois Fillon)氏に敗れるというのが大筋の見方ではあるものの、米大統領選でドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が選出されるという予想外の結果が現実のものとなっている以上、ルペン氏勝利の可能性も完全には捨て切れない。