【12月10日 AFP】世界反ドーピング機関(WADA)は9日、カナダの法律家リチャード・マクラーレン(Richard McLaren)氏によるロシアの組織的なドーピングを暴いた最終報告書を公表し、2014年のソチ冬季五輪や2012年のロンドン五輪などの国際大会でメダルを獲得するために、同国では1000人以上の選手が「組織的な陰謀」に関与していたと結論づけた。

 マクラーレン氏は新たに発表した報告書の中で、ソチ冬季五輪でドーピング検査用のサンプルのすり替えが行われていたことや、サンプルを操作するために塩やコーヒーが使用されていたことを確認したと発表。夏季および冬季五輪・パラリンピックに参加した選手のうち、「ドーピング検査での陽性反応を隠すための策略に関与したり、恩恵を受けていたりしていた可能性がある」のは1000人以上に上ると述べた。

 各国際競技連盟に情報が提供された五輪選手695人の中には、検査で「不正があった」と指摘された「有名な強豪選手」も含まれており、報告書では「年数を重ねるうちに、隠蔽(いんぺい)工作の規模は、野放し状態から組織的で統制されたメダル獲得戦略と陰謀に進化を遂げた」とされている。

 露スポーツ省は改めて国家ぐるみのドーピング関与を否定したが、報告書によれば工作行為は2011年に始まり、2012年からは不正の発覚を恐れたビタリー・ムトコ(Vitaly Mutko)前スポーツ相の下、政府主導で行われるようになったと指摘されており、「組織的な陰謀は、露スポーツ省とその関係省庁の下で、夏季および冬季五輪に出場した選手の間にはびこっていた」とされている。

「これらの行為は、露スポーツ省の大臣と副大臣を含めた同国政府高官の後ろ盾があった」

■汚された五輪

 ロシアではサッカーを含めた約30競技でドーピングに関与していたと指摘されたものの、特に横行していたのは陸上と重量挙げとなっていた。

 これまで一切の疑惑を否定し、個人的な関与は指摘されていムトコ氏は、国際オリンピック委員会(IOC)から今年8月に開催されたリオデジャネイロ五輪への参加を禁じられたが、その後、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領の下で副首相に昇進している。

 ムトコ氏は新たなマクラーレン報告書の内容に猛反発し、露国営タス通信(TASS)に対して、「最初の報告書に政治的意図があり、世界のスポーツに対する何らかの陰謀であることに確信を得ている」とすると、「わが国のスポーツ界は、国際スポーツ組織である英国反ドーピング機関(UKAD)の指導下にあり、隠された策略など何もなかった。何かあったとすれば、その検査所の責任者によるものだ」とコメントした。

 マクラーレン氏は組織的ドーピングをプーチン大統領が把握していた証拠は何もなかったとしながらも、記者会見では「ずっと以前から、国際スポーツ大会は、何も知らずにロシア人にハイジャックされていた。コーチや選手たちは不公平な立場で競技に臨み、スポーツファンと観客は裏切られてきた」と強調。さらに露政府関係者を信用できたとしても、「内部改革が必要である」と指摘した。

 2012年のロンドン五輪をはじめ、2013年に露カザニ(Kazan)で開催された第27回ユニバーシアード夏季大会(World Student Games)と、第14回世界陸上モスクワ大会(14th IAAF World Championships in Athletics Moscow)で繰り返されてきたドーピングの手口は、特に2014年のソチ五輪で「巧妙化」された。

 ロンドン五輪で金メダル24個、銀メダル26個、銅メダル32個を獲得したロシアは、当時の検査にすべて合格。マクラーレン氏は、「ロシアは前例のない規模で、ロンドン大会を汚した」と述べた。(c)AFP/Tom WILLIAMS