【11月10日 AFP】米大統領選で共和党のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が当選したことを受け、経済面などで結び付きが深いメキシコでも激震が走っている。通貨ペソが対ドルで史上最安値をつけたほか、株価も急落。政府は緊急の経済対策は必要ないと不安の火消しに躍起になっているが、市場では先行きに不透明感が広がっている。エンリケ・ぺニャニエト(Enrique Pena Nieto)大統領はトランプ氏と就任前にも会談し、関係構築を図る方向だ。

 トランプ氏は選挙戦でメキシコに関して、大量の不法移民を強制送還することや、国境に壁を建設して費用はメキシコ側に負担させることなどを公約。さらに北米自由貿易協定(NAFTA)についても再交渉する考えだ。

 そのためメキシコ中央銀行のアグスティン・カルステンス(Agustin Carstens)総裁は9月、トランプ氏が当選すればメキシコ経済は「(最も強い)カテゴリー5のハリケーン」に見舞われるだろうと警鐘を鳴らしていた。

 その懸念は金融市場では早々に的中することになった。「ハリケーン・トランプ」が上陸した9日、外国為替市場ではペソが一時1ドル=20ペソ台まで急落し、過去最安値を更新。
株価も大幅安を演じ、代表的な株価指数は終値で前日比2.23%安となった。

 メキシコ政府は市場の不安払拭(ふっしょく)に懸命だ。ホセ・アントニオ・ミード(Jose Antonio Meade)財務公債相は9日、インフレは抑制され、外貨準備は1751億ドル(約18兆4200億円)を誇り、マクロ経済も安定しているとして「早まった対応」を取る必要はないと言明した。

 一方、ぺニャニエト大統領は同日、トランプ氏に電話で祝意を伝えたと発表し、その際の雰囲気は「誠意に満ち、友好的で、礼儀正しいものだった」と説明した。さらにトランプ氏との間で、両国関係の方向性を明確に打ち出すため「できれば政権移行の間」に会談することで合意したと明らかにした。「信頼できる関係の構築や共有する未来のために取り組んでいく」ことでも一致したという。

 ぺニャニエト大統領は8月末、メキシコ人を「レイプ犯」呼ばわりしたこともあるトランプ氏を大統領公邸に招いて会談したことで多くの国民の怒りを買い、支持率が急落した経緯がある。

 大手格付け会社フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)はリポートで、トランプ氏がメキシコに関する公約をどこまで実行に移すかは不明だとしながらも「メキシコが米国と非常に密接な経済関係を結んでいることを踏まえれば、トランプ政権の誕生はメキシコ経済の不確実性を高める」との見方を示している。(c)AFP/Jennifer GONZALEZ COVARRUBIAS, Laurent THOMET