【8月10日 AFP】ブラジルで開催中のリオデジャネイロ五輪は、ロシアと米国の水泳選手らの間で勃発した論争により、まるで冷戦(Cold War)下の1970~80年代に行われた五輪のような様相を呈している。両国間の関係は、国家ぐるみのドーピングが指摘されたロシアのリオ五輪締め出しを米国が要求して以降、緊張状態が続いていたが、8日の競泳女子100メートル平泳ぎ決勝でさらに激化した。

 決勝では、米国のリリー・キング(Lilly King)とケイティ・マイリ(Katie Meili)がそれぞれ金メダルと銅メダルを獲得。一方、銀メダルを手にしたのはロシアのドーピング問題を象徴する存在となった元世界女王ユリア・エフィモワ(Yuliya Efimova)だった。

 24歳のエフィモワは当初、リオ五輪への出場を禁止されていたが、開幕直前に一転して出場が認められていた。これに対し、キングを含む米国チームは、エフィモワは出場を禁じられるべきだったと抗議していた。

 決勝では観客がエフィモワに対してやじを浴びせるという、五輪には珍しい光景がみられた。エフィモワがキングに僅差で敗れると、会場には「USA!USA!」のコールが響き渡った。

「自分の意見を言ったうえで、競技でも勝ててうれしい」とコメントしたキングは、「私はみんなが思っていたことを口にしただけ。ほかの水泳選手たちは、私がはっきりものを言える度胸があることを好意的に受け止めているわ」と語っている。

 キングはプールの中と表彰台の上で2度、銅メダルのマイリと喜びの抱擁を交わした。その一方で、エフィモワの銀メダル獲得を祝う気は一度も起きなかったという。

「私はその場の気分に身を任せただけ。もし私がユリア(・エフィモワ)の立場だったら、自分にああいう言葉を浴びせた人におめでとうと言われたくないと思う。もし本人が祝ってほしかったのであれば謝るけど」

 エフィモワは過去に禁止薬物のステロイド(steroid)の陽性反応が出たため、1年4か月の大会出場停止処分を科されていた。さらに今年から新たに禁止薬物に指定されたメルドニウム(meldonium)の陽性反応が出たため、暫定処分を受けていたが、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服申し立てを行い、5月に処分は撤回された。

 エフィモワは決勝直後のインタビューで感情を抑えきれず、すすり泣きながら質問に応じていた。メダリストの記者会見までには気持ちを立て直したが、質問が自身のドーピングに及ぶと、涙をこらえながら「私は1度間違いを犯し、その処分を受けました」と答えた。

「2度目は私の過ちではなかった。どうしたらみんなに理解してもらえるのかが分からない。もしヨーグルトが禁止されて、その陽性反応が出たとしたら、それは自分の責任なのですか?」

 生活拠点である米国でトレーニングのほとんどを行うエフィモワは、自分は政治的対立の巻き添えとなったと主張している。

「スポーツへの政治介入にはとても腹が立つ。選手たちには政治の世界に足を踏み入れるのではなく、お互いの問題に対する理解を示してほしい」

「私は年間で1か月しかロシアで過ごしていない。ロシアで何が起きているのかは知らないし、信じたくない」

(c)AFP