■ブラジル人と規律

 規律こそがメディさんの成功の根幹だとすれば、長年続けた代表コーチのキャリア、そして現役生活が暗転する要因になったのも、その厳格な手法だった。1967年の世界選手権で、メディさんはブラジル柔道連盟(CBJ)の姿勢にがまんがならず、激しく対立した。そして「厳しすぎる」という理由で連盟から追放されたのだ。

 それでもメディさんは、いまだに「ブラジル人には規律がない」と考えている。連盟を離れて以来、柔道の指導で全国各地を飛び回っているメディさんだが、その強烈な指導スタイルは、今でもブラジル人たちをすくみあがらせる。

 86歳ながら、衰えない投げのさえをみせるメディさんは、道場でたびたび声を荒らげ、黒帯の生徒を怒鳴りつける。「こっちに来なさいと言われたらぐずぐずしない!そんなことは日本では許されないぞ。走って来なさい。さあ、わかったら戻って最初からやり直し!」

 メディさんの道場で、たびたび指導を受けているという40代半ばの生徒はこう話す。「ブラジルの学校では、生徒がタタミに寝転がっておしゃべりしているところを目にするのも珍しくありません。だけど彼の前ではそれはあり得ない」

「小さいところをおろそかにしない。それがセンセイの教えですから」

(c)AFP/Sebastian Smith